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楽曲解説 -タ行-

 邦楽の様々な楽曲の由来や解説などを知り、より演奏を楽しむ為の考察です。

鶴の巣籠(ツルノスゴモリ)

 鶴巣篭は、尺八古典本曲を代表する一曲。また、尺八を始め地歌・筝曲・胡弓などの器楽から歌舞伎や浄瑠璃といった舞台芸術にまで広く取り入られている曲目。「巣篭因縁経(※)」と呼ばれる、親の愛のありがたさを解いた経文の趣旨を標題に作曲されたものであると云われている。井原西鶴が書いた男色大鑑の「編笠は重ねての恨み」の最後にも鶴の巣籠という尺八曲を吹いた、とあることから少なくとも1687年の4月までには巷に広まっていたことがうかがい知れる。
 尺八・地歌・筝曲・胡弓など新旧あわせて30曲以上あるといわれ、そのどれもが明暗寺別伝の鶴巣籠をもとにされているといわれており、さらに巣鶴という曲が原曲であると云われている。ここでは尺八曲の鶴の巣籠をあつかう。地歌の鶴の巣籠についてはコチラ

 雛鶴の誕生から巣立ち、親鶴の死を描いた標題音楽。段構成をとるものが多く、玉音などの擬音的効果音や特殊奏法が多用される。
 この尺八曲から胡弓へ移曲されたとされ、その胡弓から都山流の鶴の巣籠はさらに再移曲された。
 関西系と奥州系に大別されるという。私もすべての巣籠をまだ吹いたわけではないが、私見では、流派や地方による特徴を消去してとらえると多くの巣籠に相互的な影響、あるいは原曲を同じとする同一ルーツような、旋律の共通性などが感じられる。
 鶴の巣籠のツルは、丹頂鶴(タンチョウヅル)のような鶴をイメージしがちだが、昔はコウノトリも鶴と総称されていた。この2種類の鳥は巣作りの仕方が違う(平地か樹上か)ので、曲相にもどちらの鳥かを表現できれば素晴らしい。関西系は「寺の樹上で鶴が巣籠もり~」との伝承もあるのでコウノトリ、奥州系は丹頂鶴のイメージがよいか。

 人間国宝である山口五郎師が吹いた巣鶴鈴慕が、地球の音楽の代表の一つとして純金のレコードに録音され、惑星探査機ボイジャーⅡに搭載され、外宇宙へと旅立っていった。もしかしたら、これが人類と地球外生命体とのファーストコンタクトになるかもしれない。
 余談として、曲としての鶴の巣籠とは関係がないが、囲碁の囲いの形の名称として鶴の巣籠や鶴の巣などとの用語が用いられている。
 また、油揚げと菜物を似て卵を落としたものや巾着に卵を入れたものなども鶴の巣籠と呼ぶ。

巣籠の名を冠するものとしては、下記のものがある。

琴古流:
巣鶴鈴慕(ソウカクレイボ)
碪巣籠(キヌタスゴモリ)
鶴の巣籠(巣鶴鈴慕抜編曲)
※雲中祥鶴(久松風陽作?)
※契巣籠(佐藤晴美作)、八千代巣籠

明暗真法流
鶴之巣籠(ツルノスゴモリ、鶴巣籠) 計3種
 ※勝浦正山(カツウラショウザン)伝と尾崎真竜(オザキシンリョウ)伝の2種
 ※1種は地歌系の鶴巣籠で西園流のものに似ている
 ※譜付秘書に途絶えた鶴巣籠あり(琴古流の巣鶴鈴慕と似た曲)

西園流:
鶴巣籠(ツルノスゴモリ) 外曲と本曲の計2種
 ※現在伝わっている物は外曲で、明治24年以降にいつのまにか外曲が本曲として伝承されるようになり、本来の本曲・鶴巣籠は、その旋律型を一部外曲の鶴巣籠に残すような形で途絶えた。
秘曲 鶴巣籠 の電子楽譜(PDF)なら¥500(幻海尺八書房サイト)

明暗対山
鶴の巣籠
 ※西園流からの移入、前吹きが追加されている
巣鶴(スヅル、ソウカク、古伝巣籠、五段巣籠)
 ※琴古流巣鶴鈴慕からの移入

錦風流
別伝 鶴の巣籠(2種類。※折戸如月伝と津島孤松伝、布袋軒伝鶴之巣籠とも)
<補足>
2種とも小野寺源吉伝とされているが、聴いたところでは如月伝は布袋軒系、孤松系は琴古系の巣籠である。

奥州系:
<小野寺源吉伝>
布袋軒(フタイケン)伝鶴の巣籠、錦風流別伝鶴の巣籠、
奥州巣籠、小野寺源吉の巣籠、
海童道曲 鶴巣籠とも
 ※布袋軒のものは全体を通して玉音が多く、錦風流は玉音が少なめ
 ※広澤静輝による編曲補填とされたが明治37年の錦風流の譜が現行と同じ
 ※海童道祖は広澤静輝から習い短く編曲
<神保政之助伝>
連芳軒(レンポウケン)伝鶴の巣籠、喜染(善)軒(キセンケン)伝鶴の巣籠、
三谷巣籠(サンヤスゴモリ)、神保巣籠
とも
 ※連芳軒喜染軒伝鶴の巣籠(レンポウケンキゼンケンデン)と続けていう場合も

都山流:
鶴の巣籠(初世中尾都山が胡弓→ヴァイオリン経由で編曲)
※もとは胡弓へ移曲されたものの再々移曲。

上田流:
巣鶴鈴慕〈上村雪翁(ウエムラセツオウ)伝、上田芳憧(ウエダホウドウ)増補〉
 ※もとは胡弓へ移曲されたものの再移曲。

竹保(チクホ)流:
鶴の巣籠〈初代酒井竹保(サカイチクホ)作曲〉

如道会:
所伝不明 鶴の巣籠
 ※もとは胡弓へ移曲されたものの再移曲。

※ 巣篭因縁経:
 極寒の雪原の上で子育てする親鶴は、寒風が吹けばその身で雛を守り、雛が腹を空かせれば、己の疲れも忘れて餌を求めて飛び回る。そして、餌が手に入らなければ己の腹の肉を雛に与え、成長を育む。遂には雛は立派に成長し巣立ちを迎え、振り返ることなく飛び去れば、親鶴はその姿を見て静かに体を横たえる。
 父母恩重経(フボオンジュウキョウ)に近い、親の愛を解いた経文。
(注)巣篭因縁経という経文が仏経典に存在せず、往時の辻説法の一つではないかと思われる。

 歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」、塩谷判官(浅野内匠守)が高師直(吉良上野介)の度重なる侮辱に対して遂には堪忍袋の緒が切れ、殿中で刃傷沙汰に及んだ時、とっさに主を羽交い絞めにしてしまった加古川本蔵。
 その八段目・山科閑居の場、それを裏切りと思う大星由良助(大石蔵之助)の元へ本蔵の妻・戸無瀬と娘の小浪が訪ねてくる。由良助の子・力弥の所へ小浪が嫁入りするという場面である。しかし、それを許さぬ由良助の妻・お石は冷たくあしらい、婿引きでとして本蔵の首を所望する。悲嘆にくれた戸無瀬は娘とともに合い果てようとする。
 その時、虚無僧に扮した本蔵が屋敷の門に立ち、尺八を吹く。「これ娘、あれを聞きや。表には虚無僧の尺八、ありゃ鶴の巣籠り。鳥類でさえ子を思うに、とがのない子を手にかける母の因果…」。本蔵は妻娘を憐れみ、門に入って故意に罵詈雑言をお石に向ける。その無礼に溜まらず力弥は思わず虚無僧を刺し殺してしまう。これは我が身を犠牲に娘を嫁がせようとする親心。本蔵は今わの際に由良助に高師直の屋敷の絵図を託す。由良助は全てを理解し、心底を汲み、本蔵の虚無僧衣装を身につけて江戸に立つのであった、その肩に今は亡き主と友の無念を背負いながら…。


参考音源:都山流 鶴の巣籠(提供:鶴田馨山氏、公開曲リスト

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