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尺八コラム 限界突破!

続・調子考① 2015/1/5

 前話「調子考」では、現状判明している尺八五調子を表記し、今後の解説のための日本音名や日本音階・旋法の名称・種類について明らかにした。
 今回は、そこからさらに尺八五調子と日本音名・音階などとの関連性などを考察していきたいと思う。
 現状、私が「尺八の調子」について疑問に思っていることは、①古名称(黄鐘調などの調や音階)と管の関係、②現存する本曲と調子の関係、③五調子と旋法の関係、などである。

尺八の音階

 まずは、尺八の管(楽器)の音階について考えたいと思う。その為には、前話の音階で紹介した図を壱越調(D)に再表記してやるのが先決かと思う。
 何故、壱越調を基準に考えるのかというと、それは「1尺8寸の基音・ロが壱越(D)であるから」というわけではなく、三分損益法により壱越(D)から12種類の音が生み出されたこと、また古代尺八(雅楽尺八)一節切(ヒトヨギリ)の主音が3孔音の壱越(D)だと考えられているからである。(もちろん現代尺八家にとって馴染みやすいというのも、考慮のうちではあるが…。)
 西洋音楽的な楽理を基にすれば、古代尺八や一節切の管の基音である黄鐘(A)から考察するのがセオリーではあるのだが、どうも明治以前の日本においては、管の中央の音やよく使う音が主音と考えられていたきらいがあるように思われる(雅楽や一節切、人物では久松風陽など)。
 あるいは主音というものは存在するが、固定された絶対的なものではなく、相対的なものであるのかもしれない(絶対音感ではなく、相対音感を主体に構築された音楽?。つまり主音は移動するもの、ということか)。後述するが、この辺りの西洋と東洋の差異が調子をややこしくしている要因ではないかと思う。だが、念のために後で必要になるかもしれないので黄鐘調も表記しておく。

日本音階・旋法(壱越調)、尺八修理工房幻海
↑日本音階・旋法(壱越調)、画像クリックで拡大

日本音階・旋法(黄鐘調)、尺八修理工房幻海
↑日本音階・旋法(黄鐘調)、画像クリックで拡大

 図を参照すれば、民謡音階が尺八管の音階と一致する事が解ると思う。ただし、ここで新たな疑問が湧いてくる。「民謡音階はそれほど早い年代から存在していたのか」ということである。
 現在のところ民謡音階は、陽音階の2音めを半音上げる形(図ではEからFへ)で進化したものだと考えられている。つまり民謡音階は、陽音階の”後にできた”ということだ。
 陽音階は早くとも平安末期の猿楽や田楽とともに生まれたか、あるいは鎌倉・室町頃に大衆芸能(能楽一座)が全国へ広がる過程で生まれたと思われる。そこから民謡音階が生まれるのであるが、陽音階から数年のうちに派生したとは考え難いように思う(もちろん、楽座ごとの競い合いから急速に生まれた可能性は否定できないが…)。
 つまり私が言いたいのは「尺八(古代尺八や一節切)で、すでに使われている管の音階が、後から陽音階を元に派生した」というのは可笑しいのでないか、ということだ。これがもしも「もともとは律音階や陽音階で尺八が調律されており、その後、民謡音階の誕生とともに、尺八の調律が変化した」というのであれば、納得がいく。ただし、現実に正倉院などに楽器が残っていることを考えれば、そうではないことは明白だろう。

古代尺八・一節切の管音、尺八修理工房幻海
↑古代尺八・一節切の管音、画像クリックで拡大

民謡音階は尺八から!?

 私はこの矛盾から一つの仮説を思いつく。それは「民謡音階は陽音階から派生したものではなく、尺八が大衆芸能の一部として全国へと広がるにつれ、聴衆がこの尺八の音程に”耳慣れ”し、自然と民謡音階として受け入れられ、形成されていったのではないか」と。
 これは、少し逆説的ではあるが、いくつか根拠がある。まず全国の民謡でほぼ共通した音階が用いられていることの不自然さ。例えば、方言は地方によってかなりの特色がある。にも関わらず民謡では、音階が同じように使われているというのには、いささか不思議である。そして、これを補足するように、尺八が上手く伝播していない沖縄には独自の音階「琉球音階」が残っていることも、偶然とするには無視できない点である。
 以上のことから「民謡音階が尺八から形成されたのではないか」と考える。

 であるとするならば、「そもそもの尺八管の音程は、どこからきたのだろうか」という問題が残る。私の推測では、そのことについても一応の説明は可能ではないかと考えている。
 まず、前提として「管楽器の音程は、その調の曲を吹きやすくするために進化した」と考えるのが自然だと思う。例えば、♭が5つも6つもつく曲を吹くために、メリカリや指をかざすなどを一々するぐらいなら、♭が鳴らしやすい楽器に調律する・持ち替えるなどと工夫するのは、極々自然な感覚だろう。これは、世界中の楽器の例から見ても明らかである。
 つまり古代尺八ないし一節切がその音程であることは「当時の曲を吹くのに適した状態」であったと見るべきなのである。

つづく…続・調子考②

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