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古管尺八の修復・修理①

古管尺八の修復・修理① 2015/1/30

 古管尺八を手に入れた、あるいは所持している方が、その楽器の修理修復の必要性に迫られた時に一番心配されるのは「その楽器の時代を感じさせる”古さ”や”音味”が、現代風に修理されて損なわれるのでは…」ということかと思います。
 現代風にしてやることは容易ですが、できれば”古管は古管のままに”しておきたい。古管は貴重な楽器であると同時に、その時代に演奏されていた音楽や考え方を知るための貴重な史料でもあります。
 ただ、古管とはいえ楽器ですので、あくまで吹奏できる状態でなければ意味がない。後生大事にしまっておいたのでは、より破損部分が深刻化することもありえますし、何より本来、音楽を奏でるために存在する楽器にとっては音を奏でられないことは不幸なことです。
 そのような貴重な楽器を当工房では、どういった考えを元に修理・修復しているのかをこのコラムで少しでも示せればと考えています。他にも「古管尺八の修復・修理②」という記事もあります。

修復する古管

寸法:1尺8寸
作:明治期の琴古流の演奏家・製管師、加藤秋月?
製作年度:不明。製作の形状から明治~昭和初期頃ではないかと思われる
形状:地無しと地塗りの中間、節の残りはなし、地は塗っていても少量
歌口:琴古系、黒水牛角
管内:赤漆
中継ぎ:ホゾは友心竹、籐巻きの上に赤漆塗り
管尻:底面にも黒漆が塗られている
蒔絵:管尻と下管側裏面の中継ぎ直下に紅葉と水の波紋の蒔絵あり
紅葉3葉(高蒔絵、金)・紅葉1葉(平蒔絵、金)・波紋(研出し蒔絵、銀)の3種類

修理履歴:歌口を入れ替えた形跡あり。管尻の蒔絵黒漆部分の下方に修復の形跡あり

古管尺八 全体像(修理前)、尺八修理工房幻海 古管尺八 焼印、尺八修理工房幻海
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[備考]
 内部は地無しと地塗りの中間のような作りで地が塗られていたとしても少量。地塗りの技術が確立する前時代の物のようで、内径の取り方などは地無し的である。
 指孔や各所の形状などから明治~昭和初期頃の作りではないかと推測。また蒔絵部分を知り合いの蒔絵師に鑑定してもらったところ「明治頃か、少なくとも100年ほどは経っていそう」とのことなので、私の推測と一致する。

破損・不具合の箇所

・歌口~節間、約15cmほどの割れ
・歌口下の変色&粘着部分
・中継ぎ~4孔間の割れ
・歌口裏面の補修跡
・中継ぎ籐巻きの部分劣化
・管尻の蒔絵部分の剥離
・管全体の汚れ

古管尺八 歌口~節の割れ(修理前)、尺八修理工房幻海 古管尺八 中継~4孔割れ(修理前)、尺八修理工房幻海 古管尺八 歌口裏の不具合(修理前)、尺八修理工房幻海

古管尺八 下管中継ぎ裏蒔絵(修理前)、尺八修理工房幻海 古管尺八 管尻蒔絵(修理前)、尺八修理工房幻海 
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 竹前面の歌口から15cmほどにも及ぶ割れがあり、歌口も真二つになっている(※写真は少し割れを閉じた後、実際は0.5mmほど開いていた)。その近辺で以前に割れ止めをテープか何かで試みたのか粘着性の汚れがあり、甚だ不快(気持ち悪いのですぐに除去した)。一部、接着剤を使用したようでカスも残っている。
 内部には相当にホコリが溜まっており黒ずんでいる。この状態で内部を確認するとホコリのために判別できないが、割れが内部まで届いていないことを祈るばかりである(掃除した後に確認したが内部に割れが到達している)。地無し尺八的な構造であるが節は全てきれいに取り除かれており、若干、地が入っているようでもある。
 歌口は割れてはいるが欠けなどはないので、上手く割れを閉じればそのまま使えそう、ただよく見ると歌口裏の赤漆の色合いが他の部分よりも濃く、盛り上がっている。誰かが歌口を入れなおしたようであるが、漆の色合いが違うので恰好悪いし、雑なのか少し息の流れを阻害しているようでもある。
 中継ぎは、尺八本体の竹を削りだして作る、友心竹で作られている。また、中継ぎ内部から4孔にかけて割れがある。この割れは、友心竹のために竹の肉が薄いので、割れ止めをするのが難しそうではある。中継ぎの籐巻きも部分的に劣化している。
 管尻は、落下でもさせたのか漆塗り部分の地が剥がれ落ちている。一度、修理されているのか水紋の蒔絵が一部途切れている。

構想・着工

 折角の古管であるので、この古管の味を失くすというのは問題外。修理するにしても現代的な修理をするよりは、古管が作られたであろう時期の修復に習い、その雰囲気を残したものにしたいと考えている。とはいえ、古さを追い求めるが余り、修復強度が弱まって再発するのであれば、元も子もない。その加減をどうとるかが問題である。

[割れ止め]
 歌口~節の割れであるが、現代は彫り込んで籐を巻くのが一般的であり、それを等間隔にするのが一番スッキリとしてよいのだが、それではいかにも「現代の人が修理しましたよ」といわんばかりになるので良くはない。かわって昔のものは籐を巻くのみなので強度はほぼ無いようなもの。なので彫りこんで補強するが表面に籐を巻くようにする。
 また籐の間隔も、(おそらく近い時代であろう)古管の真龍や古鏡に倣い、不均等に配置する。その際、唯の不均等では強度のバランスがバラバラになってしまうので、しっかりと配置と力配分を計算する。と同時に、色の変色している場所を上手く紛らせるように配慮する。
 たんに籐を巻いたままでは籐の新しさが鼻につくので、同時代に多くあるように籐の上に漆を塗って、籐の新しさを上手く殺す(これには中継ぎや管内と色味を統一する狙いもある)。
 中継ぎ~4孔の割れについては、強度を考えれば割れ止めをしたいところではあるが、竹の肉厚や指孔・中継ぎの位置を考えると籐巻きを表面にしたのでは運指の邪魔になりそうでもある。また時代的にもこの部分に籐巻きしているものは少ないので合わないようにも思う。それなら鎹(かすがい)をつけてもいいのだが、やはり竹の肉が薄いので効果は期待できない。なので、今回は籐巻きをせず、金継ぎのように漆などで補強するに留めたいと考えている。この部分には、ちゃんと純金を使用している。

古管尺八 歌口~節の割れ止め、尺八修理工房幻海 古管尺八 歌口~節の籐巻き、尺八修理工房幻海 古管尺八 籐巻き漆塗り、尺八修理工房幻海 古管尺八 4孔~中継ぎ割れ止め、尺八修理工房幻海
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[歌口]
 割れのために歌口が真っ二つに割れているが、これは上手く閉じることが出来たので問題なし。ただ歌口裏が”以前の歌口入替えのために”少し盛り上がったり、漆の色違いがあったりするので、この部分は少し削って息の流れを整えてやったほうがいいだろう。

[管尻・蒔絵]
 管尻の漆の剥離部分は地を塗ってきれいに再整形する。その際、通常のように地漆(錆漆)を作っても強度が弱くて同じことが起こる可能性が大なので、特殊な手順を踏む。もちろん石膏などは使わない。
 蒔絵の一部劣化については「いっそ書き直して…」とも考えたが、時代を感じさせるものでもあるので、そのままにしておく。以前に一度修理されたと思われる蒔絵下の漆塗り部分は、少し補修箇所のつなぎ目に段差があるのでここもついでに綺麗に塗り直すことにする。
 管尻底面も研いでいると元は金箔が貼られていたようである。以前の修理で一部なくなっているが、上手く直せば黒と金で根来塗りのような面白い図柄になるだろう。

古管尺八 管尻整形1、尺八修理工房幻海
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[管内・中継ぎ]
 管内・指孔に到達した割れや歌口裏側を再整形したこと以外にも、管内のところどころに漆の剥離や劣化が見られるので極々薄く漆を塗る。これは破損部分からの湿気の侵入(腐る原因)やカビ予防になる他、管全体の色味の統一も兼ねている。一部分ではなく、全体に薄く塗布するのでこれによる音色への影響は無い。
 中継ぎ(上管)の内側にも割れが到達しているので補強ののち漆を塗る。中継ぎの籐も漆を塗り直す。これには籐の剥離を抑える役割と割れの補強、色味の統一といった意味もある。

[音律・音色]
 独特の響きがあって、悪くない。音律も現代管に比べれば幾分ピッチが低いが本曲や独奏で吹く分には十分使える楽器だろう。

完成

 修理・修復の完成した蒔絵入りの古管尺八。蒔絵が入っていることで修理の制約が非常に多く、中々大変であった。蒔絵部分は上手く補修しつつ、磨いてあげたことで艶を取り戻し、往古の輝きを取り戻した。
 当時の琴古流には、元大名家や華族、大商人など裕福な人の出入りも多かったので、あるいはそういった人からの依頼で作られた尺八であったのかもしれない。

販売価格=¥240,000

古管尺八 全体像(修理後)、尺八修理工房幻海 古管尺八 管尻(修理後)、尺八修理工房幻海 古管尺八 全体図(中継ぎ分離)、尺八修理工房幻海

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