尺八コラム 限界突破!
ツレに見る流派・地域の特徴 2015/3/12
尺八には、様々な流派や地域ごとに育まれた曲、吹奏法があります。そして、その曲中に出て来る1フレーズこそが、その流派や地域性を表現しうるものであるのです。その1例として、一番良く使われるフレーズの「ツレ」に的を絞り、私の考えを語っていきたいと思います。
普段、何気なく吹いている1フレーズに地域や文化、繋がりが見えてくるかもしれません。
参考音源:ツレに見る流派・地域の特徴
[都山流のツレ]
都山流のツレは、表記上は「ツレ」になっていますが、実際には「ウツレー」としっかりとウの音を聞かせることが多いように思います。もちろん、単純に「ツレ」と吹く場合もありますが。
初代・中尾都山は、宗悦流の流れを汲み、また明暗真法流の尾崎真龍や勝浦正山とも懇意であったことを考えると、本来の明暗真法流の「ツレ」はこのようにゆったりとした「ウツレー」であったのかもしれません。
※左 表記上、右 実演奏
[明暗系のツレ]
現在の明暗系のツレは、表記上は「ツレ」「ウツレ」と2通りで書かれることがありますが、どちらの場合でもウの音はゴーストノート(その指使いをするが実際には音にならない音のこと)として用いるのみで、ほとんど音にはなりません。ですが、このウの指使いをするかしないかで随分と雰囲気が変わります。
九州地方(博多一朝軒)と北陸地方(越後明暗寺)ともにこの明暗系の形と流れを汲みますが、九州系の場合はややさっぱり且つ豪快に、北陸系の場合は奥州や根笹派の流れも汲みますのでやや陰鬱な感じでしょうか。
[琴古流のツレ]
琴古流のツレ(本曲の場合)は、表記上は「ツレ」でもツはメリ(都山でいう大メリ)、さらにメリ込みや押し・アタリなどの技法が複雑に盛り込まれています。レも他のフレーズに繋がる場合はスリ上げ、そこで終る場合はオリケシと色々なパターンがあります。
この琴古流のツレをよく聞くと、関東と奥州とでは地域が近いせいか、奥州系のツレに通じるものがあると気づきます。
初代黒沢琴古は福岡黒田藩出身であることや、長崎の松寿軒から多くの曲を移入していることから九州の影響があるのかと思いきや、曲のフレーズから考えると奥州系の影響があったと見られるのは面白い点です。
今の琴古流は随分変ってしまったようですが、前身である尺八指南所母体の鈴法寺や一月寺はもともと、奥州系に近い吹き方であったのかもしれません。古文書には、奥州の寺で問題があった時には、触頭である一月寺に裁量を仰いだりといったこともあったようですし、何かと繋がりや影響があったのかもしれません。塚本虚童も荒木竹翁らの吹き方と今とでは随分と違うと同じようなことを書き綴っています。
※三谷管垣のような雲井調子のツレの場合は、ツはカリになり、レ音へさっぱりと繋がる明暗系に近いような「ツレー」になります。
※左 表記上、中 実演奏、右 細分化
[奥州系のツレ]
奥州系のツレは、松巌軒と布袋軒で少しフレーズが変わりますが、どちらもウ(ほとんど聞かせない)からツのメリに移り、さらにメリ込んでレに移るといった動きをします。このレに移る時に一度ツのメリに戻るか、戻らないかという違いがあります。
こうやって観察すると琴古流のツレに非常に良く似た動きをしてることが解ります。松巌軒の方がより近いですが、これは元々そうなのか、あるいは琴古流の神如道の影響によるものなのか…面白いところです。そういう点では、布袋軒の方が原種に近いのかもしれません。北陸系にも曲中にたまに用いられます。
※ 右 松巌軒型、左 布袋軒型
[根笹派錦風流のツレ]
根笹派錦風流のツレは、明暗系に近似してシンプルですが、ツのメリになります。
一見、明暗系の影響あるいは近似種であり、その独自性としてツのメリになったかのように見えますが、もしかしたら琴古流または奥州系のツレから細かい技法を除去した形として発展したのかもしれません。
といいますのも、錦風流が興る際に吉崎好道という人物が琴古流を学んでいるからです。そう考えれば、あるいは元々の琴古流はこの形であった可能性もあります。
流し六段という曲は、一閑流(琴古流系)からの移曲であるとも伝わっています。また、根笹派はもともと奥州の虚無僧組織に属する派の一種でした。どちらの場合も、何かと繋がりが深くありますので、十分に考えられることです。
[明暗真法流のツレ] ※音名は括弧内が(明暗真法流名)
明暗真法流(旧 京都明暗寺)のツレ(ホウ)は、ウ(ル)の指をしつつ、ツレー(ホウー)と吹きます。この時、楽譜に表記されている場合のツ(ホ)を少し長く吹き、レ(ウ)のみの場合は短前打音的に短く入れます。音だけで聴けば、前者は都山流のツレに、後者は明暗系のツレに似ています。
日本地図 補足:
上の日本地図は、非常におおまかな地域による分布図です。特定の時代に固執したものではなく、私のざっくりとしたイメージといったところでしょうか。こうやって俯瞰で見ると、漠然と考えていた地域性や繋がりなどが見えてくる気がします。
現代の隆盛具合を考えれば、都山流と琴古流の分布は全国に広がっているのですが、その興った地域・元の団体を考慮して初期の勢力圏を範囲として記しました。
また明暗系は、樋口対山や普大寺(西園流)の範囲として京都から中部地方に跨るような形にしました。色味も一応は、似た系統や相互に影響しあっているものは同系色を持ってきたのですが、琴古流と都山流だけは少し異質な文化(三曲や西洋音楽)との接触で急激な変化を遂げていますので、他とは変えています。明暗真法流については、現在は失われてしまっていますので表記していません。
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