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尺八 真の名人列伝

 この世に尺八吹きは数あれど、真の名人と呼ぶに相応しい人物はそうそういない。私がこれまで出会ってきた、あるいは演奏会やコンサートで、あるいはCDなどの録音物で聴いた方々などで、本当に感動し、尊敬し、後世に残したい、伝えたいと思う演奏家を紹介していきたいと考えている。

尺八の達人・名人・・・

湯浅富士山(ユアサフジザン)

本名湯浅富士朗、浄土宗の僧名は順信。都山流大師範竹琳軒、またオペラ歌手・声楽家としても活躍。同時に浄土宗の僧侶でもある。

 はじめ、初代中尾都山の大越篆山(オコシゴウザン)に習い、のち二代北原篁山に師事する。東京在住中に一時、山口五郎にも手ほどきを受けた。また東京芸術大学在学中に邦楽サークル(後の邦楽科の前身)を立ち上げるなど、邦楽界に与えた功績は大きい。都山流の師範試験では、練習中の音を聞いていた試験管があまりの上手さに驚き、試験免除しかも飛び級で大師範にされた伝説がある(本人はそれ以来コンクールに出れなくなったので残念がっていた)。
 ドイツ留学中に現地レコード会社よりスカウトされ、「Ufer zum Frieden(平和への岸)」という尺八レコードを出版。ドイツだけでなく、ヨーロッパ中で好評を博す。帰国後は、声楽・尺八共に国内外で精力的に活動し、後進の育成にも尽力した。しかし、高平艟山の都山流営利的・非音楽的な考え方に疑問を感じ、野に下った。悲しいことに、それがきっかけで邦楽界からは名前が消え、多くの人に徐々に忘れられていってしまった。しかし、今でも一部の大御所演奏家達には記憶されている。西洋音楽に裏付けられた音楽表現と声楽で鍛えられた身体コントロール、尺八の並外れた演奏技術は、音楽としての尺八演奏としては、まさに富士山の名に相応しい名演奏家である。
彼がドイツ留学中に現地で尺八のレッスンを体験したことについて、彼の音楽に対する考え方を象徴するかのような一文が、新聞に掲載されていたので引用する。「日本人はテクニックを重んじる傾向にあるが、彼ら(ドイツ人)は音楽のもっとも重要な美しい音、一つの音だけで感動させられるような、深い響きを求めた。」(昭和55年8月13日日本経済新聞)。この言葉は傾聴すべき指摘だろう。

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