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練習法・吹き方

幻海お知らせブログの方で過去に紹介した、尺八のさまざまな吹き方や練習法を少しまとめていきたいと思います。初心者にもできるだけ解りやすく、経験者にとっては目から鱗な上達法。ほんのちょっとの練習の仕方だけで、どんどん尺八が上手くなります。

尺八を始めるにあたって

 尺八に限る話ではありませんが、何かを始めようとしている方に、是非、知っておいてほしいことを書きたいと思います。
 このような、ことわざがあります。

弟子は師匠の半減

 意味は、「いかに優れた弟子であっても、その力は師匠の半分程度までしか身につかず、師匠を越えることは難しい」です。
 私も尺八や、それ以外にも様々な師弟関係を見てきましたが、私の感覚として、非常に才能や呑み込みのいい弟子で師匠の7割、基本は3~5割といった印象を持っています。「だったら何かを学ぶことに意味なんてないのか」と思われるかもしれませんが、私が言いたいことはその逆です。
 師匠について学べば、誰もが3~5割は最低でも上達できるのです。しかも師匠の技量によって、弟子の伸び代に差があるということです。それなら、めちゃくちゃ上手い師匠から学べば、下手な師匠から学んだ場合とでは、身につく技量に雲泥の差ができる、というわけです。
 例えば、ある二人の師匠の技量が、Aは20、Bは10、あったとします。A師匠に学んだ弟子は5割で10の技量が、B師匠に学んだ弟子は5割で5の技量が身につくということになります。上達後の結果を見るとA弟子はB師匠に匹敵する技量を身につけられることになります。これが道を極めた達人(技量100)から学んだら……。

 もちろん、このような単純な計算だけというわけではありません。弟子のやる気や習得速度で変わってきます。ですが、どうせ教わるならできるだけ上手い師匠から学ぶ方がいいということです。どんなジャンルでも、今、一流として名をはせている人は、やはり一流の人から学んでいます。
 西洋音楽の話ですが、ヴァイオリンやピアノ、声楽で音大・芸大あるいはプロを目指す人などは、わざわざ地方から東京の有名な先生の元へ1~2時間のレッスンの為に夜行バスなどを利用して通うなどという話も聞きます。指揮者なんかだとわざわざ海外へ学びに行くという話も多いですね。
 まぁ、全ての人がプロになるというわけではありませんので、そこまでの事を全ての人にしろとはいいません。ですが、どうせ同じ時間やお金をかけるならより効率や上手くなれる方がいい、とは思いませんか。

 ちなみに独学の場合は、他と比べてだいたい1~2割、さらに妙な癖がついていることも多く、改めて師匠に学ぼうとすると最悪の場合マイナスからのスタートであることもあります。
 ただ、学ぶジャンルや未開拓な技能の場合は、独学が10割以上の成果を上げることもありますが……。そういった人は鬼才と呼ばれ、だいたい万人ができる方法ではなく、その人にしかできない方法という、独自の型を生み出しています。何れにせよ、それはかなりレアケースです。
 尺八に限っていえば、独学でそんな人は見たことがありません。単に音を出す程度なら独学でもいけますが、人を感動させるような演奏は残念ながらできないでしょう。型破りという言葉がありますが、型を破れるのは基本形を身に付けているからこそなのです。それを知らずにするのは、ただの滅茶苦茶です。

もう一つの真理

 さて、もう一方で「弟子は師匠の半減」には、見逃せない真理が含まれています。それは、言葉通り「師匠を越えることは難しい」ということです。こと伝統に関して言えば、これは非情な重みがあります。
 先ほどの計算(弟子は師匠の5割)をもう一度、例に当てはめてみましょう。師匠10→弟子5→孫弟子2.5……と代を重ねるごとに劣化していくことが解ります。
 「こんなバカな計算なんて、何の根拠にもならない」と思われるかもしれません。ですが、歴史を振り返れば、このバカげた計算式があながち間違いとも言い切れないのです。
 例えば、琴古流の歴史を見ると、3代目までは初代からの地盤を維持していますが、4代目のころには「長とするには技術が拙い」として弟子の間で不満が起こり内部分裂しています(琴古流がこの難局を乗り越え、存続できたのは、ひとえに久松風陽という義理堅い名人がいたおかげです)。この他、明治~昭和ごろに起こった流派・会派(世襲でも継承)でも、やはり3~4世代目あたりで問題を抱えたところが多いように見えます。
 師匠を越えられず、代を重ねるごとに劣化するという、この残酷な真理の前に、伝統芸能の燈火は消え去るのみなのでしょうか。

 確かに、この残酷な真理は存在しますが、やはり歴史を振り返れば、師匠を越えていると思われる人物は確かに存在します。尺八の記録として明確なのは、初代黒沢琴古、初代中尾都山、樋口対山、それに海童道祖ら開祖とされているような人物達です。
 この方達を、自分とは違う「類まれなる感性と技量を持ち合わせた、いわゆる”天才”」と一括りにしてしまうことは容易です。ですが、それはこの方達の工夫や努力、後へと道を託した思いに対して、いささか失礼だと私は思います。
 ならこの方達と師匠を越えられない弟子たちとの差は、いったい何なのか……。私が思うに、それは「他のどんな事からでも無理やり己の尺八の糧にしようとする貪欲さ」ではないか、と思います。
 初代黒沢琴古は、己の裾野を広げるために一月・鈴法両寺の指南役をしつつも、他寺の虚無僧や虚無僧寺から本曲を収集したことで知られていますし、本調子とは別に曙や雲井調子などの替手を新たに作りました。初代中尾都山は、はじめ明暗寺の虚無僧に尺八を学び、のちに真法流の勝浦正山と交流を持ち、また一方でヴァイオリンや西洋音楽を尺八に取り入れました。樋口対山は、はじめ兼友盛延に尺八を学び、のちに琴古流を荒木竹翁に、九州や奥州の曲を時には自ら教える弟子から教わって対山曲に編曲し、その他にも雅楽や書画も学んでいました。海童道祖も、はじめは津野田露月に学び、のちに奥州を始め様々な本曲を学んで、己の道曲に昇華させています。
 最近の例でいえば、将棋界に超新星の如く現れ、快進撃を続ける藤井聡太四段(執筆当時)。彼は従来の定石だけにとらわれず、AIの発展で目覚ましく進化したコンピュータ将棋から逆輸入の形で技術を学んでいるといいます。彼が師匠を越えているかどうかは門外漢の私には解りませんが、並み居る先輩プロ棋士を倒す姿は、従来通りに教えられたことだけをするのではなく、革新的な手法を取り入れたことも大きな要因だと感じます。また同じく将棋の羽生永世七冠は、将棋の他に同じボードゲームのチェスを趣味で指し、世界大会にも出場するといいます。
 この他、歴史に名を残すような偉人や芸術家の中にも、他分野からの閃きや斬新な方法を取り入れた例が多いように思います。

 ただし、勘違いしないでいただきたいのですが、これはあくまで自らの地盤がしっかりしてこそなのです。基礎をないがしろにしたままで、多くのことに手を出すことは、結局、どれも身につかない生半可な生兵法になります。
 上にあげた方々をはじめ師匠を越えたような方々は、しっかりと基礎を身に付け、あるいは基礎を学びつつ、新たなことを学んで取り入れている、ということを決して忘れてはいけません。

つまるところ

 師匠を越えるには、師匠以外からも学ぶ必要があるということです。それは、他流派でも、他分野でも、本でも、趣味でも、何でも構いません。己の視野を広げろということです。
 再び、例の計算式を当てはめてみましょう。A師匠の技量が、50あったとします。その師匠からしっかりと学んだ弟子は25の技量が身に付きました。次に違う演奏が得意なB先生(技量20)からB先生の得意とする演奏をA弟子は学びました(+10で技量35)。次に同じ管楽器のフルートのC先生(技量30)から、西洋音楽の考え方と呼吸法を学びました(+15で技量50)。こうしてA弟子は、多くの方から様々なことを学び、A師匠に匹敵するだけの技量と知識を身に付けられる、という寸法です。
 もちろん、これは大雑把な計算で、実際には学び先が増えても、技量が増えるほどに学べる部分は少なくなります。カラッカラのスポンジとある程度水を含んだスポンジとでは、水の吸収力に違いができることに似ていますね。
 一方で、時に今まで足し算であったものが、掛け算になったかのように他から学んだことがきっかけで、飛躍的に技量や知識が向上することがあるのも事実です。何かしらに打ちこんだことがある人なら、そういった経験をしたことをある人も多いのではないでしょうか。

 弟子が師匠を越えていくことほど、師匠孝行なことはありません。師匠の偉業を維持しようとすることは大切ですが、その場にとどまる事を「努力しない己への言い訳」にしてはならないのです。
 これから尺八に限らず何かを始めようとされる方は、こういった理があるということも少し頭の片隅に置いておいていただければと思います。
 最後に、例え多くの人から学んでもそれぞれの師匠をおざなりにはせず、学べることに感謝して、礼を持って接していただければと思います。また、師匠は弟子を拘束せず、成長を促すようにしてあげましょう。

 こちらの記事をはじめ、尺八の練習方法や管理の仕方などについて、詳しくは「まるごと尺八の本(葛山幻海 著)/¥1600」に記載しています。よかったらそちらも参考になさってください。

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