Top -トップ->Study -尺八の考察->-尺八道具箱->虚無僧の衣装

道具箱

 尺八製管時に使用する道具や製管師の独特な言い回しなどの用語集。ここでは、尺八の保管方法や尺八本体のことから、尺八の製管に使用する道具の紹介や製管師が使う独特な言い回しなどを解説していく。

ページ内 目次:
 ・虚無僧に必要なもの【三具三印】
 ・昔の虚無僧が持っていたもの【乾坤六腑】【副子】
 ・虚無僧装束(白装束)
 ・虚無僧装束(黒装束)
 ・略装(略式装束)
 ・虚無僧作法

虚無僧の衣装

 尺八を吹いていれば、「一度は…」と憧れる虚無僧の恰好。
 そんな虚無僧の衣装もいざ用意しようと思うと何が必要で、何が正しいのか、どこで手に入れればいいのか、ということが非常に解り辛くなっています。
 そこで、このページでは虚無僧の衣装の解説や必要な道具、購入先などを紹介していきたいと考えています。
 実際に虚無僧が身に付けていた物や所持していた物がよく解る事例として「虚無僧松」の項も参照のこと。

虚無僧に必要なもの【三具三印】

 細かい仕来りや礼儀作法というものはありますが、まず何をおいても虚無僧に必要なものとして、三具三印というものがあります。
 三具のうち、尺八は托鉢・修行の道具として、袈裟は修行僧・法体の証として、笠は世俗を離れた者・消えた者として必要であり、三印はさらにその虚無僧行為が正当であるための証明として必要でした。

・三具
尺八:八寸管を別名に長、一尺四寸管を別名に短。どちらを所持してもよい
袈裟(けさ):大掛絡(だいから、※1)もしくは絡子(らくす、※2)
笠:編み笠もしくは天蓋(深編み笠、※3)托鉢巡業・旅行時のみ必要
・三印(※4)
普化本則(鈴鐸話・縁起書)及び免状(虚無僧許可書)
諸国往来手形(往来)または通行手形(合印・会合印)
掟書(慶長の掟書)

※1 大掛絡=禅僧が身につける方形の略式袈裟のこと。通常は前掛けに着用するが、虚無僧の場合は、旅装として左肩掛けにして用いる。

関連記事:一休さんの大掛絡

※2 絡子=禅僧が普段身につける小さい方形の略式袈裟のこと。天蓋を取る室内などでは、こちらを用いる方がよい。

※3 天蓋の材質は、一般的にイグサ・籐・竹ひごの3種類あります。イグサが最も軽く、籐、竹ひごと重くなっていく。丈夫さでは竹ひごが一番。雨粒をはじくために漆や柿渋が塗られたものもある。天蓋の販売はコチラ真竹製虚無僧天蓋イメージ画像01 尺八修理工房幻海

※4 三印について現代では、普化宗が廃宗しているので正式なものを手に入れることは不可能。最後の虚無僧・谷狂竹は戸籍謄本を持ち歩いたというから、代わりに身分証などを所持するとよい。どうしても本物のようにしたいなら古文書をコピーするしかない。行化許可証(虚無僧許可証)は、京都明暗寺の明暗教会のみが現在でも発行している。

昔の虚無僧が持っていたもの【乾坤六腑】【副子】

 古文書などから見ると昔の虚無僧は三具三印の他に多くのものを携行していたことが伺える。その代表的なものに乾坤六腑と副子がある。
 乾坤六腑は、寄進された米銭を、神前に供える代わりに、一時的に納めるために必要とするもの。
 副子は、現代でいうところの旅行用のスーツケースのようなもので、旅装の他、旅先で行き倒れた際には、棺おけ代りに使ってもらうものでもある。副子の色(あるいは副子を包む大風呂敷の色)は、金先派(一月寺系)は蝋色、括総派(鈴法寺)は水色、寄竹派(京都明暗寺)は浅葱色を用いるという。どのようなものであったかというと、虚鐸伝記で虚無僧姿になった楠木正勝が虚風に別れを告げて旅立つ姿を描いた挿絵で背負っているものが副子にあたる。
 その他に、天蓋をかぶった際に頭に巻く鉄扉(鉢巻・手拭い)、尺八の代わりとしてもつ代竹など。

・乾坤、六腑(けんこん、ろっぷ、※4)
・副子(ふくす、※5)
大包袱(おおふくさ、おおふろしき)):大風呂敷
中結び
乾坤張(けんこんちょう、けんこんばり)
・鉄扉(てっぴ):俗に鉢巻(または手拭い)
・代竹(かわりたけ):指孔の開いていない尺八寸法の竹・錦袋に納める
・懐中刀:短刀または4~5寸ほどの小刀

※4 乾坤六腑、どちらも紙製の袋で、乾坤には寄進された銭を納め、六腑には寄進された米穀を納める。これが虚無僧の作法で、布製のものを使うものは偽虚無僧だとされる。俗に紙袋。

※5 副子は、竹や柳で作られた行李(こうり、葛籠の一種)で、大きさは自分の体を折り屈めて詰め込める程度。大風呂敷は木綿の五尺四方ほどの大きさで行李を包み込み。中結びは行李を閉めたり、また背負うための帯として用いる。古文書に見られる各派で用いられる副子の色とは、行李の色ではなく大風呂敷の色のことだと思われる。
 乾坤張は、巾3寸、長さ2尺5寸の板を3枚合わせて釘付けしたもの(裏表の2枚は軟質の木材、中の1枚は硬質の木材を用いる)で、表の一面には「乾坤張」と記し、裏の一面には「不生不滅」と記している。そして、中の一面には自分の出処本名、所属などを記しておく。
 つまりは、現代で云うところの旅行カバンと名札のようなものである。また、同時にこれは根無し草のように放浪する虚無僧が行き倒れた際には棺おけへと早代わりする。大風呂敷で遺体を包み、行李は棺桶代わり、そして乾坤張は位牌と卒塔婆代わりである(外側の軟質の木材が先に腐って、後に中の硬質な木材が残って名が出てくるため)。
 白装束に副子を背負いとは、まさに死出の旅立ちの心意気であり、必死の修行を表したものといえる。

虚無僧装束(白装束)

 白装束の場合。上記の三具三印の他に様々なものが必要になります。全てを揃えるのは大変ですが、重用なものから列挙していきます。白装束は、修行僧を意味し、世俗の汚れを洗い流し、神仏に向かう姿を意味しています(修験者やお遍路も一緒ですね)。広義では死装束も同じ意味です。

・偈箱(げばこ)または頭陀袋(ずたぶくろ):
 遠方への托鉢勧進の場合は偈箱。近郊の托鉢巡業の場合は頭陀袋だと云われています。偈箱には、本則などの重用書類を入れておくための隠し戸がついていたものもあります。

・白衣(びゃくえ、しらぎぬ、はくい)、襦袢(じゅばん)、帯:
 白衣はその名の通り白い着物。襦袢はその中に着る肌着ですが、あまり派手なものは良くありません。
 長襦袢と半襦袢がありますが、どちらでもかまいませんが、半襦袢のほうが丈を調節しやすいかもしれません。
 帯は、あまり派手ではない男帯(角帯)。それを”虚無僧結び”にするのが一般的ですが、簡易的に”片ばさみ”にしてもかまいません。帯の結び目は後ろにするのが一般的ですが、前に回してもかまいません。
 また帯をいちいち結ぶのは大変なので、予め縫って虚無僧結びなどの形を作っておき、紐やマジックテープでとめるという工夫をする人もいます。

帯の結び方 参考URL:男の着物指南

・足袋(たび)、雪駄(せった)、下駄、草鞋(わらじ):
 足袋は、白装束の場合は黒足袋、もしくは紺などの色足袋が本来は望ましいです。白足袋は、寺住まいの住職や高位の僧などが履くもので、修行僧が履くのはおかしく、また修行で土道を歩くのに真っ白な足袋というのでは、「修行をしていないのか」ということになります。ですが、今日ではあまり気にされていませんので、そこまで気にすることでもありません。旅歩きなら、地下足袋やエアー足袋なんかもいいかもしれません。
 履物は、遠出の場合は雪駄か草鞋を、近郊の場合は下駄がよいと云われていますが、今はどちらでもかまいません。

・手甲、脚絆(きゃはん):托鉢旅行の場合は用いますが、近郊の托鉢巡業の場合は用いません。ただ、これを着けている方が見栄えも格好良くなります。

・朱扇、印籠、守り刀、替え尺八と袋、数珠、手拭い(手巾)
 その他に必要なものとして、様々な物があります。以下にあげるものは現在では、装飾的意味合いの方が強いです。別に全てを揃える必要はありません。
 朱扇(夏扇)あるいは中啓(ちゅうけい、半開きに固定された扇)は、お布施を貰う場合や畳の上へ経文や尺八をおく場合、また座る・立つなどの所作のタイミングを知らせるものとして用います。
 印籠または煙草入れは、旅中の丸薬やキセル・煙草などを入れるために用いられます。
 虚無僧は、武士からの出家ですので帯刀を許されています(ただし五寸までとされている)。守り刀(懐剣)は、そういった武士であることの矜持と同時に、旅中の災いを除くお守りとしての意味もあります。今は竹光や模造刀でないと御用になります。
 替えの尺八を袋に入れて、腰に差します。これは実用としての意味もありますし、脇差の代わりという意味もあるのかもしれません。

虚無僧装束(黒装束)

 黒装束の場合。上記の三具三印の他、白装束と重なる部分も多くあります。江戸時代中期頃の虚無僧はあまり黒装束で托鉢行脚することはなかったようです。どちらかというと歌舞伎の助六などに見られるような派手な着物や女物の着物を用いるなどの伊達虚無僧が多かったといいます。
 この黒装束+天蓋+袈裟=虚無僧という認識は、吉川英治著で映画化もされた「鳴門秘帖」の公儀隠密・法月弦之丞(のりづきげんのじょう)の虚無僧姿やその他の映像作品によるところが大きいように思います。

・偈箱(げばこ)または頭陀袋(ずたぶくろ):
 遠方への托鉢勧進の場合は偈箱。近郊の托鉢巡業の場合は頭陀袋だと云われています。偈箱には、本則などの重用書類を入れておくための隠し戸がついていたものもあります。

・黒無地、黒紋付など:
 着物は黒系の無地でできれば、絹などの高価なものは避けるほうが修行僧という立場上よいでしょう。木綿・ウール・麻・化繊と材質は特に問いません。季節や管理のしやすさで選べば良いかと思います。
 興国寺や明暗寺などの団体に所属している場合には、紋付を使用することもありますが、基本的にはそれほどこだわるものでもありません。
 また、黒に限らず紺や茶系など色のシックなものを使用するのでもかまいません。江戸時代頃の傾者虚無僧などは、女性用の派手やかな小袖などを羽織っていたりもしていました。

・襦袢(じゅばん)、帯:
 長襦袢と半襦袢がありますが、どちらでもかまいませんが、半襦袢のほうが丈を調節しやすいかもしれません。
 帯は、あまり派手ではない男帯(角帯)。それを”虚無僧結び”にするのが一般的ですが、簡易的に”片ばさみ”にしてもかまいません。帯の結び目は後ろにするのが一般的ですが、前に回してもかまいません。
 また帯をいちいち結ぶのは大変なので、予め縫って虚無僧結びなどの形を作っておき、紐やマジックテープでとめるという工夫をする人もいます。

帯の結び方 参考URL:男の着物指南

・袴:
 黒装束の場合には、袴を使用する事もあります。この袴を用いた方が、足捌きも楽になりますので、長旅には向いています。
 袴には、行灯袴(あんどんばかま、スカートのような釣鐘上のもの)、馬乗り袴(うまのりばかま、乗馬が容易なように股が割れている)、野袴(のばかま、足首が搾られていたりとズボン状のもの)などがあります。野袴が種類も多く、一番機能的で良いですね。
 袴を利用する際には、中の着物が足の邪魔をしないように”尻ぱっしょり”を行ないます。

・足袋(たび)、雪駄(せった)、下駄、草鞋(わらじ):
 足袋は、黒装束の場合は白足袋もしくは色足袋を用います。旅歩きなら、地下足袋やエアー足袋なんかもいいかもしれません。
 履物は、遠出の場合は雪駄か草鞋を、近郊の場合は下駄がよいと云われていますが、今はどちらでもかまいません。

・手甲、脚絆(きゃはん):托鉢旅行の場合は用いますが、近郊の托鉢巡業の場合は用いません。ただ、これを着けている方が見栄えも格好良くなります。基本的には白ですが、装束や袴の色に合わせて、色つきでもかまいません。

略装(略式装束)

 白装束や黒装束といった正式な虚無僧装束を用意するのは大変ですし、また献奏大会や演奏会などの各種行事で準備する・着替えるということは大変な負担になります。
 そんな負担を極力減らし、それでいて儀礼に対して失礼に当たらないような衣装として略装(略式装束)というものがあります。

・布袍(ふほう)、黒衣:
 見た目は黒装束のようですが、作務衣の上着を大きくしたようなもので着方も同じようなものです。他の宗派のお坊さんが普段着・移動着として着ているのを良く見かます。
 高価なものでは絹製などもありますが、価格とあくまで普段使い、洗濯が容易であることを合わせれば化繊で十分なように思います。夏用・冬用などがありますが、どちらでもかまいません。
 襦袢の上に着てもいいですし、スーツや作務衣のうえからこれを着れば十分な装束となります。つまり羽織るだけです。

・半袈裟、輪袈裟:
 袈裟(大掛絡や絡子)といった専門的なものではなく、在家用の簡易的な巡礼用品として用いられるものをいいます。短冊状にしたような布で、これを身につけることで袈裟の代わりとみなします。

虚無僧の作法

托鉢:托鉢修行は、集団であってはならず、また一人であってもならない。必ず二人で行う。

酒:修行先では杯では給わってはならない。休日あるいは夜分などで、保養のためであればこれにあたらない。