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尺八用語集 -カ行-

 尺八の演奏技法や諺などの用語集。

外曲(ガイキョク)

 尺八主体として作られた曲を本曲というのに対して、箏や三味線などで作られた曲を尺八で奏する場合、それを外曲という。

替え指

 通常の指の押さえ方ではなく、他の押さえ方で同じ音を出すこと。若干だが音色が変わるため楽曲表現を多彩にしてくれる。それぞれの流派によって固有の替え指があって面白い。
 例えば、乙チのメリ(G#)をウ(1・3孔開けてメリ)を吹く等。

抱(カカエ)

指をかざしてメルこと。明暗真法流の呼び方。

かざし

指を孔にかざすことで音程を半分ほど下げる技法。

カラカラ

 「カラカラ」には、「通常のカラカラ」と「メリのカラカラ」と「大メリのカラカラ」3種類ある。表記する場合には、大メリの方は、小さい文字で書かれる。5孔を閉じて、4孔はカザシ(メリは1/2閉、大メリは3/4閉)。3孔は開き、2孔は開けても閉じてもどちらでもかまわない。そして、1孔を細かく叩きもしくは刻みを行う。出来るだけ、早く細かく行うほうが鳥が「チッチッチ」と鳴いているように聴こえてよい。
 完成度の低い尺八には、カラカラが鳴りにくい・鳴らないものもある。そういったものを片鳴りあるいは、片カラという。尺八選びの目安とするのにも役立つ。
 明暗系や琴古系では鈴ゴロと呼ばれる。近似した技法で上ゴロ(3孔でのカラカラ)といったものもある。

カリ・カル(浮)

 基本音よりもアゴを上げ、高い音を出すこと。舌面とアゴあたりの角度が制限されるのでムラ息などの息のかすれた風切り音がでやすい。楽器の構造上、息を大量に使用する必要があるので音が大きくなりやすいことには注意する。

カルマン渦

 カルマン渦列とも。気流の流れの中に何か障害物を置くとき、または流体中に固体を動かしたとき、その後方に交互にできる渦のことをいう気象現象のことをいう。その渦によってできた音をエオルス音などとも呼ぶ。音響にも非常に深く関わっており、口笛や尺八などの管楽器もこの渦によって音が鳴ったり、音の厚みがかわるという。また、学術的にはこの渦によって音が生み出される事から、材質による音色の違いはないとされている。
 しかし、ここからは私見だが、竹の材質や木材・金属と使われる管楽器によって音色が微細ながら変わることから、倍音の含み方が異なるのではないかと思う。また学術的に「同じ」とされるのは、あくまで数値、あるいは録音された音での評価であるから、音響機器(マイクや録音機)の精度であったり、後の編集(サンプリングレートやBit数)によって録音しきれない倍音なども多量に間引かれているので、その楽器の真実といえるかどうか解らない。

甲(カン)

 尺八の高音部の音のことで乙音の1オクターブ上のこと。西洋音楽でいうところのフルートと同じような音色がする。

カンニングブレス

ア行の息継ぎ・息盗みの項を参照。

刻み

 音を連打する技法の一つ。落としのような独特な強弱があるのとは違い、淡々とリズムを刻むこと。

虚鐸(キョタク・キョダク)

 尺八の名称の一つ。虚鐸伝記によれば、本来は尺八のことを虚鐸と読んでいたらしい。また、明暗谷派の西村虚空が提唱する尺八の呼び方でもある。その他の名称に竹や笛、空洞律などとも呼ばれる。
 また別に明暗対山流の曲名でもある。

切(キル)

尺八の表記の一つ。余韻を残さずに音をとめることをいう。

気を取る(気をはずす・意表をつく)

 人の気を取るよう、急に変化をつける吹き方のこと。
 演奏中、観客はおおよその次の音を予測している。それをあえてはずすことで意表をついたり、感心させる効果がある。ただし、やり過ぎるとただのまとまりのないものになってしまう。

吟(ギン)

明暗真法流の手。エ(チ)の時だけナヤシ上げる。

空洞律(クウドウリツ)

尺八の別称。他に竹や笛、虚鐸などとも呼ばれる。

口メリ

 アゴを上下させずに口の形・息の送り方のみで音を下げる技法。天蓋をかぶった虚無僧たちがメリのたびにアゴを上下させていたのでは、天蓋が揺れておかしいので編み出した。現在では、ほとんど使われることがないが、古典本曲ではこれを使ったほうが味がでる。

くさび吹き(楔吹き)

 ユリなどのヴィブラートを一切加えず、ただひたすら真っ直ぐな音を吹き切ること。音の減衰がまるで、昔の楔形文字のように最初が大きく終わりにつれて弱くなる様からくさび吹きと呼ばれる。似たようなものに笹吹き・鼓吹き・棒吹き・虚吹きなどがあり、これらをまとめて虚無僧吹きと総称する。

グリッサンド

 一般的には、ある音から他へとすばやく進むフレーズをアクセントをつけずに進む奏法をさす。
 またポルタメントの反対語として、グリッサンドは半音ステップの段階的な変化をさす。詳しくは-ハ行-ポルタメントの項を参照

クレッシェンド(crescendo)

強弱記号の一つ。弱くはじまり次第に強くしていく。対義語にデクレシェンドがある。

検校(ケンギョウ)

 職屋敷に属する盲人の官職で最高位の者の名。勾当より試験によって及第すれば高額な金額を納めてこの位を得ることが出来る。検校の中にも三段階あり、権検校・生検校・総検校があり、総検校はその最高位として唯一人これに任じられ、10万石の大名と同等の権限を持ち、全ての盲人の支配権を有する。検校は、平家琵琶・地歌・筝曲・按摩(あんま)などの盲人専業者にのみ与えられる。

現代尺八(現代シャクハチ)

 竹の内部の凹凸を漆や砥粉を用いた地と呼ばれるものを添加することで平衡にし、西洋音楽的な調律を行なった尺八のこと。別名に地塗り尺八、調律尺八とも呼ばれる。
 平衡にすることで、音程が安定し、音量も向上した。なので合奏や西洋音楽的な音の出だしの早い曲を吹くのには非常に適している。ただし、そのために竹本来の独特の響きというものは失われてしまっている。
 反対語として、虚無僧らが吹いた尺八を普化尺八、虚無僧尺八、地無し尺八などと呼ぶ。

勾当(コウトウ)

 職屋敷に属する盲人の官職の一つで、検校・別当の下、座頭の上に位する。平家琵琶・地歌・筝曲・按摩(あんま)などを生業とする盲人が、職屋敷においてその技を試験を受け及第することで任ぜられる。勾当から検校へ昇る者も多いが、勾当のままで止まる者もいる。

孔名譜

 篳篥や竜笛をはじめ、邦楽の管楽器に使われる記譜法のことで管名譜ともいわれる。ただし、正確には尺八の場合は孔名ではなく、指遣いの「ロツレチハ(リ)、フホウエヤ」であらわす。

ゴースト・ノート

 管楽器などで、実際には音に鳴らないのに演奏しているように聴こえている音のこと。俗に「音を飲む」という言い方もされる。弦楽器では、別名にブラッシング・トーンとも呼ばれ、鮮明な音はしないが打楽器的なリズム・グルーブといった音を得ることができる。
例えば、3・4孔の「ツレー」と吹くときに、ツの音が鳴る前に3孔を開けても「ツレー」と鳴っているように聴こえるようなもののこと。上級者ほど実際には聴こえない音を大切にする。

古管尺八

 特に江戸~明治頃に作られていた地無し尺八の呼称で、楽器として以上に文化的価値が高い。古鏡(コキョウ)、初到(ショトウ)、俣野真龍(マタノシンリョウ)などが有名。ただし、地無し尺八特有として個体差はかなりある。また、良い状態で保管されているものもかなり稀である。浜松の楽器博物館に浦本折潮(ウラモトセッチョウ)師が保管していた尺八が多数寄贈されている。

古代尺八

 古代尺八は、正倉院に伝来した息を吹き入れて音を出す気鳴楽器の一つで前面に5孔・後面に1孔、節の中間部を使う、長さも40cm前後と現行の尺八の特徴とは大きく異なる。正倉院には、竹製の物の他に牙・蛇紋石などを素材にしたものや様々な彫刻を施されたものもある。
 日本への伝来は諸説あるが奈良時代に雅楽の唐楽(左方、中国系の雅楽)とともに伝来されたとされ、雅楽の合奏に用いられていたとも云われる。聖徳太子が演奏したとの伝説もあり、その光景を映した雅楽の舞楽曲「蘇莫者(ソマクシャ)」にも残っている。

五調子(ゴチョウシ)

 日本に古代から伝わる5種類の音階。本調子と4種類の裏調子の合わせて5種類の調子がある。
 それぞれの名称は、本調子(表調子・拾調子・岩戸調子・一調子)、大極調子(二調子)、曙調子(裏調子、三調子)、雲井調子(四調子)、夕暮調子(五調子)と呼ばれる。ただし、この名称は江戸時代頃からのもので、され以前は1尺8寸管を基準にした場合、本調子=黄鐘調、大極調子=盤渉調、曙調子=一越調、雲井調子=平調子、夕暮調子=双調となる。本調子の表調子に対して、その他の調子を裏調子と総称するが、単純に裏調子と呼ぶ場合は曙調子を指すことが今日では多い。また、あくまでも本調子から基準に考える必要がある。
 本調子を基音とした場合。大極は2音上、曙は5音上、雲井は5音下、夕暮は2音下、といった高さになる。本+曙+雲井は連管が可能。夕暮と大極は、微妙な旋法による音の違い・指使いなどから連管には不向きである。
 根笹派錦風流では、本曲を他流よりも積極的に五調子に吹き分けることから錦風流五調子などと呼ばれることもある。

【五調子名称(江戸以降=江戸以前】
・本調子(表調子・拾調子・岩戸調子・一調子)=黄鐘調
・大極調子(二調子)=盤渉調(※)
・曙調子(裏調子、三調子)=一越調
・雲井調子(四調子)=平調子
・夕暮調子(五調子)=双調(※)

※大極調子と夕暮調子は、音・調子が反対の可能性がある。要検証

コミ吹き

 奥州系の根笹派・錦風流で発達した吹奏技法。息で一定の間隔で切りつつ断続的に吹く。これは、東北の風の強い地方を托鉢する虚無僧たちが風に負けずに音を出し続けるためにあみだした技法だといわれている。他にも津軽三味線の「ベンベンベンベン」と同じ音を連打する奏法と同じように、たんにこの地方の人が連打する音が好きだったからともいわれている。武士方と町方の微妙に異なる2種類の吹き方があるといわれている(内山嶺月著では「コミはそれぞれかなり異なる。」と書かれていることから、単に伝承者による相違かもしれない)。

虚無僧(コムソウ)

 江戸時代普化宗に属し、禅宗に基づく尺八曲を吹奏して禅の修業となし、またその曲を吹いて托鉢する在家僧体の人。普化本山(明暗寺、一月寺、鈴法寺、博多一朝軒)の管轄の下に行動する。寺ごとに派閥争いがあったらしく、自寺かどうかを判断するために「呼び竹・受け竹」という確認用の曲があり、もし違う寺の虚無僧なら決闘になったり、ということもあったらしい。深編笠を冠して面体を隠し、三具三印(虚無僧の道具と認可状)を持ち、一定の服装に整えている。神祖徳川家康が関ヶ原西軍の浪人管理政策として直筆した免状があったため、大きな特権を持っていたが、それが為に暴走もした(特権を利用した強盗・強姦など)。幕末には暗殺や強盗のためとして素人が紛れ、のち大きな乱れとなった。明治新政府により明治4年に禁止され、普化宗・虚無僧は解体された。

虚無僧尺八(コムソウシャクハチ)

 竹の内部には節が残り、現在の尺八とは一線を画した尺八のこと。江戸時代頃の虚無僧らに用いられたことからこの名がある。別名に普化尺八、虚地無し尺八などと呼ぶ。
 尺八の内部は、地と呼ばれる砥粉と漆を混ぜたものがほとんど塗られず、ほとんど竹に穴を開けたままの状態ですある。ただし、中には節を全て落とし、地を少し入れているものもあるので定義は曖昧。音律の調整は、全て節の削り具合や指孔の広げ具合で調整する。地無し尺八は、演奏・合奏用の楽器というよりも修行の為の道具といったニュアンスが強い。しかし、本曲には非常に合う。ピッチは低めで435Hzぐらいが心地よい気がする。特に江戸時代~明治時代頃に作られた地無し尺八を古管尺八と呼ぶ。
 反対語として、現代の尺八を調律尺八、現代尺八、地塗り尺八などと呼ぶ。

虚無僧吹き

 棒吹き、くさび吹き、棒吹き、コミ吹き、笹吹きなどを適宜織り交ぜて吹く奏法のこと。強弱抑揚がつき、情感に訴えることが出来る。

薦僧(コモソウ)

 室町時代に流浪者が薦をもって野外を漂遊し、細い尺八や一節切を吹いて食を乞うていた乞食僧の一種。他に「ぼろ(暮露)、ぼろんじ、聖(ひじり」などとも。虚無僧の前身であるとも云われている。兼好法師(吉田兼好)の徒然草などにも、その名が出てくる。
 とんちで有名な一休宗純も薦僧の部類だった、「風のまにまに吹いていく」。

コロコロ

 指の連打を応用した演奏技法。ホロホロとも。アゴをメリながら、3孔は閉じ、4孔はカザシ、5孔は半分閉じる。その状態で、1孔と2孔を交互に開閉する。4孔のカザシ具合でかなり音が変わるので色々と試すと面白い。この開閉を丁寧にやることで「コロコロ・ポコポコ」ともののけ姫に出てくる木霊のような不思議な音が鳴る。
 都山流の場合、この「コロコロ」には、大抵「コロコロリン」と続けて止まる事が多い。このリンは、最後の一瞬だけ「コロコロ」を早く行い、止まる瞬間にアゴをカル。
 これに近似した技法で鈴ゴロ(カラカラ)や上ゴロ(3孔でのカラカラ、3孔・4孔でのコロコロ)、ヒラヒラ(ピでのコロコロ)といったものもある。

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