尺八コラム 限界突破!
調子考 2014/12/23
尺八曲、おもに本曲で表記あるいはその旋律として利用される「調子」について考えたいと思う。何故、このような一見「調子として利用されているので明白」な論題について記すに到ったかといえば、それは年代あるいは流派・個人ごと、または現代の楽器学とは「調子の捉えかた」が大きく異なるように感じられるからである。
五調子
上記で「調子」と繰り返しているが、これは西洋音楽で言うところのハ長調(C-Dur、C major)やイ短調(a-moll、A minor)といった調・音階と同じであり、日本独自の五音(五声、5種類の音)からなる五音音階(ペンタトニックスケール、pentatonic-scale)のことである。その五音音階を5種類の音高で吹き分けたものを「五調子」と尺八では呼び、用いられている(注:尺八の五調子は雅楽の名称を一部引き継いではいるが、雅楽のものとは旋法が異なる)。
五調子の名称は、最もよく使われるものを本調子と呼び、それ以外を裏調子、あるいは太極調子(たいきょく)、曙調子(あけぼの)、夕暮調子(ゆうぐれ)、雲井調子(くもい)と呼び分ける。その他、別称と音程などは下記参照のこと。それぞれ本調子に対して2~5音ほど上下に移動する(曙5音>太極2音>本0音<夕暮2音<雲井5音)。
【五調子名称(江戸以降=江戸以前】
・本調子(表調子・拾調子・岩戸調子・一調子)=黄鐘調:基準音
・太極調子(二調子)=盤渉調(※1):基準に対して2音上げ
・曙調子(裏調子※2、三調子)=一越調:基準に対して5音上げ
・雲井調子(四調子)=平調:基準に対して5音下げ
・夕暮調子(五調子)=双調(※1):基準に対して2音下げ
※1 太極調子と夕暮調子は、調子・名称が反対の可能性がある。要検証
※2 現代ではたんに「裏調子」と呼ぶ場合は、曙調を指すことが多い。
↑五調子音程表、画像クリックで拡大
※表は、1尺8寸管で吹き分けた場合の指遣いと管を持ち替えた場合。
このように五調子に吹き分けることができる。本調子と連管(合奏)することも可能である。また旋律的には基本、本調子とのユニゾン(同音移動)であるが、尺八の場合、指使いやメリカリなどの制約があるため変化が起こり、単なるユニゾンとは異なった印象を与える。
ここまでがおおよそ判明している尺八五調子の基本的な情報である。
さて、私が疑問に思っていることは①古名称(黄鐘調など)と管の関係、②現存する本曲と調子の関係、③五調子と旋法の関係、などであるが、それを論ずる為にはもう少し、日本音名や音階・旋法などの説明が必要に思う。
日本音名
日本音名と言われると、西洋音楽の「ドレミファソラシド」を「ハニホヘトイロハ」と呼ぶことだと思うかもしれないが、これは西洋音楽的な楽理が入って来た以降の呼び名であり、本来の日本の呼称ではない。
本来の名称は、奈良・飛鳥時代頃に大陸から伝来した雅楽の音名に由来し、神仙(シンセン)、上無(カミム)、壱越(イチコツ)、断金(ダンギン)、平調(ヒョウヂョウ)、勝絶(ショウゼツ)、下無(シモム)、双調(ソウヂョウ)、鳧鐘(フショウ)、黄鐘(オウシキ)、鸞鏡(ランケイ)、盤渉(バンシキ)、と呼ぶ。
これらの音は三分損益法(順八逆六)と呼ばれる方法によって生み出された。その割り出し方は、基本となる管(x音)の長さから1/3を引く(y音ができる)、その新たに出来た管の1/3を足す(z音ができる)、以降1/3引く・足すを繰り返すという方法で、1周巡って最初の音に戻るまでに12種類の音が作られる。
※日本ではD(壱越)を基準としているので、D音からの表記。
※盤渉のシ音はH(ドイツ語名)となっているが、B(英語名)と同じ。
日本の音階・旋法
音階と旋法は、ほとんど同義的なものではあるが、音階がその民族性を現す単なる音の羅列であるのに対して、旋法はその音の用法を現す。
日本には呂旋法(ヨナ抜き長音階)、律旋法、陽旋法(田舎節、ニロ抜き短音階))、陰旋法(都節、ヨナ抜き短音階))、民謡旋法(民謡音階)、琉球旋法(琉球音階、沖縄音階、ニロ抜き長音階)などがある。
↑日本の音階表、画像クリックで拡大
参考音源・ホームページ:文化デジタルライブラリー「日本の伝統音楽・歌唱編」
※日本音階の解説と参考音源が聞けるホームページ
それぞれの生まれた時代は、
①呂旋法=古代中国から奈良飛鳥時代頃に雅楽とともに日本へ伝来
②律旋法=呂旋法を元に日本で誕生(平安時代は840年の楽制改革ごろか)
③陽旋法=庶民の芸能により地方を中心に広まる(平安末期・鎌倉・室町頃か)
④陰旋法=庶民の芸能により都を中心に広まる(平安末期・鎌倉・室町頃か)
⑤民謡旋法=陽旋法の変化だと考えられているがいつ頃かなど正確なことは不明
⑥琉球旋法=沖縄を初め、鹿児島の一部群島に独自に伝わっている音階
と、おおよそなっている。
つづく…続・調子考①へ
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