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尺八コラム 限界突破!

古代尺八の再現と実演 2016/12/9

 古代尺八(正倉院尺八雅楽尺八)について。
 この古代尺八の研究、再現については、100年ほど前から林謙三氏をはじめ、多くの研究者、機関(宮内庁、正倉院)、はたは個人によって幾度も試みられている。が、その多くは正確さや具体性に欠けているように、私は以前から感じていた。
 というのも、尺八が吹けないのでは主観的な判断はできないし、音楽的な知識がないのでは客観的な判断はできない。そして、製作の技術と経験がなければ見えてこないことも、また多い(特にこの部分がこれまでの研究資料では不足しがちである)。できることならば、自ら正倉院で現存する楽器を観察し、計測し、試奏することができたならば、何の問題もないのだが…残念ながらそれは現状ではできないようである。
 そこで私は、自らその楽器を製作し、演奏し、様々な方向性から思案して、科学的にその楽器の一番現実的な音を探究したいと思う。

 まず、私がするべきことは楽器を製作することである。これについて、私は二つの大きな過ちを犯した。
 参考にした資料は、いつか機会があった時の為にと、私が学生時分に大学の図書館でコピーした正倉院の楽器に関する書籍の一部である、その中の古代尺八の項目には、楽器の説明の他に寸法、指孔位置、ある程度の内径まで図として掲載されていたものがあり、前ページに刻彫尺八なども載っていたことから、正確なデータなのであろうと思った……思ってしまっていた。少しの内径差で音程が大きく変化することを、多少なりとも経験でしっている私にとって、内径が記述されていることは非常に魅力的で、楽器を再現するにあたって都合がいいことでもあったのである。
 その資料の尺八は約49㎝(?)であったので、それを元に計算して標準管の黄鐘律(こうしょうりつ、唐の律)のサイズ(約44㎝)に縮尺した。材料には、尺八の中継ぎのホゾ用に採っておいた真竹が、外径などがちょうどよかったために使用することにした(正倉院のHPでは、古代尺八の材料はマダケとしている)。
 が、この誤りにはすぐに気付いた。真竹の場合、ホゾ竹用の細い竹であろうが、尺八用の太い竹であろうが、根っこに近いほど竹の肉厚はかなり厚くなる。古代尺八の画像から判断するに使用されている竹は、節の間隔や竹の芽がないことから根っこの上(地上に出ている)部分だということが解る。その為、古代尺八と同じ太さの竹を、真竹を使用して作った場合、管尻部は竹の肉が厚くて内径がほぼ塞がってしまう。つまり正倉院の尺八と同じような管尾孔にしてやるには、竹自体をかなり削ってやらなければならないのだ。それどころか、場合によっては下から3~4孔までの内径はかなり削ってやる必要がある。私には正倉院に残る尺八の写真をどう見ても、そのように竹の肉が厚いようには見えない(これについては、根拠を説明できなくはないが、面倒なので経験による勘といってもいい)。
 この時点で、この材質は失敗だ……ということは解っていながらも、実験なので私は作り続けることにした。こういった試作の際は、私は必ず複数本、楽器を作ることにしている。というのも、1本しか作らなかった場合、それが本当に正しいかどうかの比較ができないからだ。2本以上作って、すべてが同じ音であればそれは正しい音だといえるし、違うのであれば誤りであることが解る。また、その違いから間違いを導き出す答え、あるいはヒントを得られるかもしれんない。なので、こういった再現に取り組む際には、必ず複数本作るべきなのである。

 真竹を材料に2本作っているが、資料に則った内径を整えるために、節だけでなく竹の棹の部分まで削ることは、専門的な道具を持っている私でさえ、かなり辛い。あまりの辛さと竹の厚みに負けて、1本は中間で切ってしまった。節だけを削るのと違って、肉厚ごと内径を広げることはすごく大変なのである。
 とはいえ、どうにかこうにか2本の内径を広げ、一応の形にはなった。中間部で切ったものは、簡易的にテープで巻いて息漏れを防ぐ。実用ではなく試用であるので、とりあえずはこれで十分。
 2本の楽器の筒音は442Hzを基準とした場合、一方はファ(F)でもう一方はやや低めのファ♯(F♯)と、吹き方にもよるが「半音~半音の半音」程度の差があった。これではどちらの音が正しいかの判断ができない。ただし、この差がどこから生まれてくるかは明快。それは、いかに丁寧に作ろうとしても竹の肉厚を削るという難しい作業で、歪になってしまった内径差によるものだろう。現代の道具でこれであるのだから、古代の道具では言わずもがな……そういった製作面から考えても真竹という材料が誤りであることはやはり明白、ということがここからも解った。
 それによくよく考えれば、真竹は日本原産の竹の種類と考えられている。古代尺八は、大陸から天皇への献上品として運ばれてきたわけなのだから、日本原産の竹で作られたというのは、そもそも論理的にありえない。大陸の竹で作られていないとおかしいのである。
 つまり結論として、材質面からも、製作面からも、由来からも、古代尺八の材料が真竹であることは、ありえないのである。その解答を、真竹を材料に試作することで得ることができた。

 それでは、どういった材質の竹であれば望ましいのか。大陸固有の竹(バンブー種など)を使用している場合、材料の入手はかなり困難になる。そこで私は、日本にも自生する淡竹(ハチク)に注目することにした。
 淡竹は、もともと大陸にあったものが、日本に植栽されて広まったといわれている。淡竹が日本にあったことを示す一番古い記録は750年ごろで、それは雅楽が伝来し、宮中で盛んに演奏されていた時期と重なる。あるいは、雅楽の楽器を国内で生産するために植え始めたのかもしれない。それは非常に理にかなっているようにも思われ、ここからも、淡竹が現実的な材料であるように考えられる。
 また、正倉院の御物の中には同じような竹を材料に使用したものに「呉竹鞘御杖刀(くれたけさやのごじょうとう、正倉院北倉)」というものがある。この呉竹は、淡竹の古い呼び方の一つでもある。御物の中にあることからも、古代尺八も同一の材料が使用されている可能性が高いのではないかと考える(材料が明記されていることは非常にありがたい)。
 もう一つ理由としては、京都御所の清涼殿の傍に「呉竹」が植えられているからである(記憶があいまいだが、これも由緒は確か大陸からの献上の品だったかと思う)。天皇の常の御殿とされる清涼殿に植えられるほどであるから、何かしら重要なものであったのだろう。
 と、以上のことからも淡竹は有力候補として考えてよかろうかと思う。そういうわけで、私は淡竹を材料に古代尺八を製作してみることにした。その為には、まず竹材を採集し、油抜きして乾燥させなければならない。ここまでが1年以上前の出来事である。

 そうしてやっと今秋、淡竹を材料にした古代尺八の製作に取り掛かる。本来であれば、竹の乾燥に数年は要したいものであるが、試作であるのでここは目をつぶる(言い訳であるが昔の製管師の中には、一夏越えれば乾燥は十分、という自論を持つ人もいる。しかし、やはり少し柔らかい)。
 淡竹を資料にある古代尺八の寸法で切ってみて、すぐにその材料が正しかったことに気付く。まず管尻部の内径の広狭が、画像からイメージしていたものにピタリと当てはまる。そして、節の間隔もまた正倉院に残る古代尺八の画像とほぼ一致した(真竹の場合、節は一つ下の節の約1.5倍の間隔で成長し、広がっていく。その為、古代尺八のような節間をとることが難しい)。
 前回と同じように今回も実験の為に複数本(3本、試作甲・乙・丙とする)製作する。内部の節の残し方などは、地無し作りの経験が役に立つだろう。資料に則って指孔位置を印し、少し小さめに孔を開けて、小刀で一つずつ広げていく。資料通りの指孔の大きさではないが、試し吹きをしてみた。
 442Hzを基準にした場合、筒音は20centほど低く、指孔も数cent程度のばらつきがあるものの、3本とも下から「ファ、ソ、ラ、シ♭、ド、レ、ミ(F、G、A、B♭、C、D、E)」となった。3本とも同様の音階が鳴ったことから、今のところ、この音律は正しいことのように思われた。
 次に一歩進めて3本のうちの2本を、古代尺八の画像と同じように指孔の形状を円形ではなく、やや楕円形にしてみて、音の変化を確認してみる。楕円形にしてみたところ、していないものに比べて20cnet(1/5音)程度、音程が上がった。このことからも、指孔の形状が楕円であることは、音律を定めるための何かしらの意味を持っていたと推察される。

 順調に試作が進み、今のところ何も問題がないように思われた最中、私はふと、こう思った。「(古代尺八は、雅楽で使われていたというし)この楽器で本当に雅楽の曲を吹くことができるのだろうか」……と。
 指孔を開閉して音を確認してから、思い出すように越天楽の旋律を吹けるポジションを探す。下から3孔明けた音(B♭)から始めると、運指的にもある程度、容易に吹けることが解った。
 そうやって何とか吹けそうか、とは思ったものの、念のため私は雅楽の平調越天楽の楽譜を奥から引っ張り出すことにした(私は学生時代に4年ほど雅楽の龍笛・篳篥を吹いていた経験がある)。そうやって龍笛の楽譜を確認してみると、最初の始まりは下から3孔明けた音(B♭)ではなく、5孔の音(D、尺八でいう都山ハ・琴古リの形)だったことを思い出す。そこで今一度、龍笛譜を見ながら古代尺八で越天楽を吹奏してみた。運指はやや難しくなり、B♭の音が邪魔をして曲にならない。替え指でどうにかならないものかと色々と試行錯誤してみたが、如何ともし難い。つまり、先ほどうろ覚えでB♭吹いたものは間違いで、かつ正しい平調の越天楽も吹くことができない、ということが解った。
 この結論には、愕然とした……。つまり、どういうことだ。3本作った楽器はどれもが、ほとんど同じ音が鳴る。これは、たまたま平調の音律が吹きにくいということなのだろうか。それとも1000年以上の時の中で雅楽が変化してしまったのだろうか(これについては、専門外なので詳しくは解らないが、今と昔でテンポや多少の手の違いはあったとしても、古い楽譜と新しい楽譜で音律や音階までが大きく変化しているようには思えない(雅楽師の名家である東儀家で、明治頃に楽譜を編纂している東儀文豊は、その著書の冒頭で「雅楽の譜本は古より写本に止まるか故に、伝え写す毎に誤謬少なからず、唯々、師に就き正す道なし」といってはいるが…)。試しに聖徳太子が古代尺八を吹いたとも云われる曲、盤渉調の蘇莫者を吹いてみる、やはりどうしてもB♭が邪魔をする。
 そこで、私は改めて雅楽の音律について、今一度、調べてみることにした。雅楽で多く用いられる調子は「壱越調、双調、太食調」「平調、黄鐘調、盤渉調」の計6種類、それが3種ずつを呂旋法、律旋法の2グループに別けられ、総じて六調子と呼ばれる。その中で使われる音は「ド、ド♯、レ、ミ、ファ♯、ソ、ソ♯、ラ、シ(C、C♯、D、E、F♯、G、G♯、A、B)」。試作した古代尺八で見られるようなシ♭(B♭)は、どの調子でも使用されない。
 つまり、(雅楽が古代尺八伝来時分と大きく変化していないと仮定して)試作した古代尺八は、再現としては不完全で間違っている、ということだ。残念ながら、時に己が認めたくないような真実こそ、正しい解答である、なんてことはよくある。

 このような結果になったので、改めて正倉院に残る古代尺八をしっかりと観察することから、もう一度始めてみることにした。そうやって刻彫尺八などを観察していると指孔が、私が元にした楽器データよりも、かなり(といっても1㎜前後だが、製管の上では大きな差)上下にふられていることに気づく。そうして、1年以上の時間と試作を経て、今更ながらに自らの過ちに気づいた……「私の参考にしていた資料のデータが完全に間違っていた」ということに。今から思えば、そもそも現存する正倉院と法隆寺伝の古代尺八の中に49㎝の楽器はない。このことに、もっと早くに気づいておくべきだったが、前ページに刻彫尺八のことなどが書かれていたがために先入観で完全に目がくらんでいた。おそらく、この資料に掲載されている楽器とデータは、論文資料の製作者が適当に作ったまがい物だったのである。

 その為、何とか正確なデータを得ようとオーソドックスな方法を試みることにした。幸いにして、正倉院には管長が記載されているし、画像も印刷することができる。そう、印刷した画像の寸法を測り、縮尺を正確に原寸大に戻すことで割り出そうというのだ。この方法は非常に上手くいった。のちに知ることとなった正倉院事務所が調べた実測値の値と0.1㎜程度の誤差しかなかったのである。
 今回は念には念を入れて、正倉院のものを何管か測ってみた。どうも竹製に比べて、玉や彫石などの鑑賞や献上目的の楽器は、その加工の難しさもあってか、かなり指孔の開け方に一定のパターンを経ず、バラつきがあるように思える。
 そういった点からも竹製の正倉院尺八を参考に再製作を試みることにした。ただ、残念なことに今、手元に残っている竹材で、ちょうど良いものは1本分しかない(少し太目のものならあるのだが…)。複数本作っての検証という意味では、来年以降に継続ということになってしまうだろう。
 前回の試作の失敗の経験と新たなデータを元に製作する(試作丁)。前回に比べると3孔と4孔の位置が少しずつ移動している。またこれは、正倉院事務局のデータにも書かれていないが、おそらく画像から判断するに指孔が刳られて調律されているようなので、各指孔など1つずつ調整していく。442Hz だと「ファ、ソ、ラ、低めのシ、ド、レ、ミ(F、G、A、B、C、D、E)」となった。
 ここからが難しいところで、雅楽という日本古来の音楽を西洋音楽の頭で考えようとすると色々と難がある。音程の基準も現行音楽の442Hzよりも低く、430Hz程度が望ましい。音程も西洋音楽のように「ドレミファ……」とは一概に言い切れず、一音ごとに低めや高めと幅がある。
 そういったことも考慮すれば、試作丁型は、ただの指の開閉で完全に雅楽の音律に則したわけではない。が、多少のアゴのメリカリで十分に補え、演奏を可能とするものである、といえる。これについては「徒然草・二一九段」で大神景茂が龍笛について一音ごとに調整が必要といった内容を語っているので、古代尺八も同じように調整していたと考えてもなんら不思議ではないかと思う(詳しくはコラム「一節切と雅楽尺八」を参照のこと)。
 試しに黄鐘調の越天楽、その後、盤渉調の蘇莫者を吹いてみたが、西洋音的な音程のバラつきは、かえって雅楽らしい音色となっているように感じられる。この作りであれば、雅楽との合奏も可能といえよう。

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