尺八コラム 限界突破!
古書等に見られる尺八に関するメモ書き 2017/6/1
【狂雲集 上】
尺八
一枝の尺八、恨み任え(たえ)難し、
吹いて胡茄塞上(こかさいじょう)の吟に入る。
十字街道、誰が氏(うじ)の曲ぞ、
少林門下、知音少し(なし)。
<訳>
尺八
わずか一管の尺八が、辛抱しきれないほど懐かしい思いに引き込まれてしまうのは、必ず胡茄塞上の曲となるためである。雑踏の街角で、その曲を吹いているのはいったい何処の某なのか。達磨門下にも、もはやその音を聞き分ける者がいなくなってしまったというのに。
<訳註>
尺八、明皇(玄宗帝)が終南山の回々院で狂僧に会う夢を見て、老僧から与えられたというもの。禅文献では宗初の『黄竜録』に「十字街頭、尺八を吹く、酸酒冷茶、人を愁殺す」とある。少林門下、『宗高僧伝』十九、洛京天宮寺恵秀伝に、玄宗が施与した一笛をのちにエイ宗に献じたという。
竹幽斎
香巌(きょうげん)、多福、主中の賓、密々参禅、要津(ようしん)に到る。
六六元来、三十六、清風動く処、佳人有り。
<訳>
竹藪ぐらし
香巌も多福も竹藪の客として、密かに主人の竹に参禅して奥義を得た。
6と6を掛けて、36歳には違いないところ、清らかな風を感じて、佳人が姿をあらわす。
※朗庵を示唆しているようでもある。
風鈴
静の時は響き無く、動の時は鳴る、鈴に声有るか、風に声有るか。
老僧が白昼の睡り(ねむり)に驚起す(きょうきす)、
何ぞ須いん(もちいん)、日午(にちご)に三更を打することを。
<訳>
風鈴
風が止むと声をたてず、風が起こると鳴るのは、鈴が音をたてているのか、風が音をたてているのか。昼寝を妨げるなら、正午に夜半の時を知らせてくれるには及ばない。
※これは普化を暗示しているようでもある。また禅や尺八の奥義ともいえる。
又
見分の境界、太だ(はなはだ)端無し、好し是れ清声、陰々として寒し。
普化老漢の活手段、風に和して塔在(とうざい)す、玉欄干(ぎょくらんかん)。
<訳>
さらに
見聞きの相手は、些か気が散りすぎる、ちょうどよいのは爽やかでそれとは見えぬところだろう。普化老人の腕の見せ所も、風ぐるみでは玉のおばしまにひっかけた感じだ。
<訳註>
普化と臨済の話は、祖堂集十七、伝灯録一〇、宗高僧伝二〇にある。
普化を賛す
徳山、臨済、同行(どうあん)を奈ん(いかん)、
街市(がいし)の風顛(ふうてん)、群衆驚く。
坐脱立亡(ざだつりゅうぼう)、敗けつ(はいけつ)多し、
和鳴(わみょう)、陰々たり、宝鈴の声。
<訳>
徳山の棒、臨済の喝も、(普化が)一緒ではどうにもならず、町のフーテン沙汰は、群衆を慌てさせる。座って死んでも、立って死んでも、(普化の死にようには)到底敵わず、響き合ってありありと(姿なき虚空に聞こえる)、宝塔の鈴の音だった。
(自賛、)又
風狂の狂客、狂風を起す、来住す、淫坊、酒肆(しゅし)の中。
具眼(ぐげん)の衲僧(のうそう)、誰が一拶(いっさつ)、
南を画し北を画し、西東に画す。
<訳>
風にいかれた酔っ払いが、狂った風を巻き起こし、女郎屋や酒場をうろついている。眼の開いた修行僧なら誰でも一突きにするがよい。(狂風が相手ゆえ)東西南北あてもなく滅多打ちにするだけだ。
※一休自身を賛した詩であるが、どこか己と普化を重ねているように思われる。
室
明頭来、明頭打、暗頭来、暗頭打。四方八面来、旋風打。虚空来、連架打。
新長老、にい。乾坤一このら苴僧。喝一喝していわく、人の来って相如が渇を問うなし、敲破す梅花、一夜の氷。打つ。方丈の自室にて。
<訳>
朝が来れば朝を打ち、夜が来れば夜を打つ。四方八面から来れば、旋風に打ち。虚空からくればからざお打ちだ。新しい長老は、天にも地にもただ一人のがさつ者とな。(一喝して)司馬相如の胸の渇きを見舞う奴は誰も無く、梅の花が夜来の氷をみごとにぶち割ってくれた。
退院(ついえん)
平生ら苴、小艶の吟、酒に淫し色に淫し、詩もまた淫す。(主丈を擲っていわく、)七尺の主杖、常住に還す、(尺八を吹いていわく、)一枝の尺八、知音少(まれ)なり。
<訳>
住職の職を退く
根っからがさつな、小艶の歌でした、酒におぼれ、女におぼれ、詩にもおぼれた。(主杖を地上になげうって)七尺棒は寺の公用物であった。(尺八を吹いて、)この一管の尺八の音色の解る人物はいなかった。
【狂雲集 下】
辞世
今宵(こんじょう)、涙を拭う、涅槃堂、技りょう尽くる時、前後忘ず。
誰か奏す、還郷(げんきょう)、真の一曲、緑珠(ろくしゅ)、
恨みを吹いて、笛声長し。
<訳>
今宵限りと涙を拭いて、涅槃堂に身を横たえていると、一切手がかりが切れて、後も先も忘れてしまう。故郷へ帰る男への別れの調べを一節聞かせてくれないか、緑珠は真の愛情を笛に託し、死ぬまで吹き続けたではないか。
【七十一番職人歌合】
四十六番 暮露
法(のり)の月広く澄まして武蔵野に 起きいる暮露の草の床哉(かな)
住吉の入り江の月や故郷の 姑蘇城外(こそじょうがい)の秋の面影
暮露の心月、いか許りの法の光をか広め侍るべき。信仰もなく覚ゆ。右、住之江の月に対して名高き楓橋(ふうけう)の渡りをも我が故郷と云い出たる所、他人のをやばざる風体、かの(安倍)仲麻呂が三笠の山の月にも澄み増さりてこそ侍らめ。
【参考文献】
狂雲集(柳田聖山 訳)/ 七十一番職人歌合(新日本古典文学大系61)
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