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尺八コラム 限界突破!

続・調子考② 2015/1/22

「続調子考①」のつづきから…

雅楽の調子と尺八管の関係

 その前提を頭の片隅に置いたままで、次にこの疑問の解を得る為にも雅楽の調子を見てみたい。
 前々話「調子考」で、チラと触れたが雅楽の調子は尺八とは異なり、呂旋法(※1)を用いた壱越調・双調・太食調(タイシキチョウ)、律旋法を用いた黄鐘調・盤渉調・平調の合計6種類がある(厳密にはこの他に枝調子と呼ばれるものが数種あるが…現代までに一部は統合され、多くは失われた)。

※1 いつ頃そのようになったのかは解らないが、現行雅楽の呂旋法は、中国伝来の「宮・商・角・変徴・徴・羽・変宮」の七声で出来たものとは異なり、律旋法と合体したような形になっている。その際、呂旋法からは変徴・変宮は省いて角音(呂角)を足し、律旋法からは嬰商を抜いて角音(律角)と嬰羽を足した、「宮・商・呂角・律角・徴・羽・嬰羽」といった七声からなっている。この変化がさらに日本の調子を複雑なものにしている。

呂旋法・律旋法・雅楽の旋法、尺八修理工房幻海
↑呂旋法・律旋法・雅楽の旋法、画像クリックで拡大

 この図を見ても「何のことだが…」というのが正直な感想だろう。ここでまず、古代尺八・一節切の管基音<A>の音である律旋法の黄鐘調に注目してもらいたい。これを大まかに見た場合、主要音である「ラ(A)・ド(C)・レ(D)・ミ(E)・ソ(G)」が使われているようなので、辻褄があっているように見える。

尺八の管音と黄鐘調の旋法、尺八修理工房幻海
↑尺八の管音と黄鐘調の旋法、画像クリックで拡大

【 しかし、商と羽の音が鳴らないというのは楽器として「音階に対応している」といえるのだろうか(律音階的な特徴を出すために嬰商・嬰羽をワザと鳴らしていると考えられなくもないが…)。
 確かに1孔と4孔の音、現代の尺八で言えばツのメリ、ハ(リ)のメリの音に相当するので、アゴを少し下げれば比較的容易に出せるとは思うのだが…。
 古代尺八の指使いについては不明なので一節切を例に取るが…一節切奏法の場合、尺八のようなメリカリ奏法は基本的になく、指使いのパターンによって「12種類に近い」音色を出すという。つまり一節切には”アゴを引いて半音~一音分も変化させるという選択肢はない”はずなので、アゴを引けば音階として成立するというのは、いささか説得力に欠けるように思われる。
 「それなら指使いのパターンで鳴らせるのでは…?」と思うだろう。確かに指使いのパターンで商(B)・羽(F♯)の音を鳴らすことは可能である。がしかし、商(B)の音の場合は、オクターブ上は容易に鳴らせるが、最低音の宮(A)の次の音としての商(B)は指使いでは絶対に鳴らすことができない。
 また、羽(F♯)の音にしても、古文書によれば「双調・盤渉調のみで使用する指使い」とされている。つまり黄鐘調では”鳴らさない音”とされているのだ。
 これでは、「律音階の黄鐘調に<完全に>対応している」とはいえないのではないのだろうか。(※2)】

※2 紙鳶内に「浮沈のこと」としてメリカリについて書かれているので、【】内の疑問については問題ないのかもしれないが、その記述がアゴによるメリカリなのか、単に半音程度音を上げ下げすることを言っているのか、曲によって固有のものであるのか、よく解らない。それどころかメリカリが必要といっているようでもあり、聞きにくくなるので良くないといっているようでもあり、まだ私にはメリカリを奏法として利用していたかどうかの判断がつかない。紙鳶原文のまま下に記す。

[紙鳶の原文]
浮沈(うきしずみ)という吹ようの事
これはかかる所をばめらし、めらす所をばからする事なり、宮に合わせて調子一曲一手にして余のうつりかはる所、それとしやべつなく一律にかりめりなく吹く事なり、黄鐘の安田を吹くにヤという所をめらし、エという所をからし、チという所をからしめらず、掟程して吹くなり、すなはち宮なり、五調子同じ事なり、高き所を高く吹き、める所をめらしあり、ありのままに吹くにあらず、少しのかりめりあれば由聲(ゆうせい)という事がついて聞きにくきなり、由聲とは自然に得る心出来る

双調の可能性

 【】内の疑問が真実であり、尺八の音階が”黄鐘調に<完全に>対応”しておらず、”他に可能性”があった場合。私は、その”他の可能性”に「双調」が鍵を握っているのではないか、と考えている。
 理由はいくつかある。
①双調の音階であったとしても一節切(黄鐘切)のラ・ド・レ・ミ・ソに対応している。またその場合、使われるのは「(宮)・商・律角・徴・羽・宮」とごく自然なものである。

②雅楽の五調子(双調・黄鐘・盤渉・壱越・平調)では、双調を最低音と位置づけている。また双調は、五行的には春を意味し、始まりを暗示させる。

③一節切の古文書では、解説で黄鐘や壱越ではなく、双調を最初に持ってきているものが多い。それでいて使う楽器は双調切ではなく、黄鐘切である。また尺八秘書(一閑流の門人筆の古文書)によれば「尺八にもとから五調子に移曲されたものはなく、三谷菅垣のみもとから双調であった」と書かれているのも面白い点である。

④双調切の一節切もまた”<完全に>双調には対応”していない

と以上のような理由である。
 これらの理由では、古代尺八を考慮の埒外においているのでいささか説得力に欠けるきらいがあるのもまた事実。
 ただ、古代尺八(正倉院等に保管されている約44cmのもの)については、私の管長と音程の割り出し計算によれば、全閉音はF♯前後、その竹の細さまた当時の基準ピッチの関係からあるいはG(双調)であったのではなかろうかと推測している。
 確かに、一度、正倉院の御物である古代尺八をしっかりとした研究者が計測し「A管である」としたのでそうなのだろうが、当時の測定のために吹奏した人によれば「1000年近く前のものであり、貴重な遺産なので、ちゃんとした息を入れることが(破壊を恐れて止められた為)できなかった」といった言を残しているという。なのであながち私の妄想とばかりもいえないのでは、と考えている。
 古代尺八については、資料がほぼない状態であることや正倉院の御物であるために研究が進んでいないことでもあるので、この辺りの研究が進めば調子と尺八との関連性についてもさらなることが解ってくるだろう。今後の研究に期待したい。

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