尺八コラム 限界突破!
割れと割れ止め 2012/7/19
竹というものは本当によく割れる、裂ける。横からの圧力にはめっぽう強いのに縦からの力には、いとも簡単に裂けてしまう。昔から、唐竹割りなどと勢いよいさまにまで形容されているぐらいだ。そんなよく割れる竹のご多聞にもれず尺八の修理で最も多いのは、割れの修理だ。そんな割れの修理、できればほったらかしにしないでほしい。どんなに大きな割れでもプロに任せてもらえれば、かなりピッタリと元の状態に近づけることができる。そんな気持ちを伝えたくて、画像を参考にしながら解説したい。間違っても接着剤なんかを流し込まない為にも。
竹は割れる。これはもう大前提。竹が割れる圧力ときたら、数百kg~1tともいわれている。試しに手で閉じようとしてもビクともしないのだからさもありなん。しかし、あせることなかれ。写真のようにぱっくりと大きな口を開けて割れていたとしても、正しい手順で対処を行なえば、ほとんど目立たなくすることも可能なのだ。
(→写真の中央にうっすら見える黒い線が割れを閉じたもの)
割れが特に多いヶ所は、歌口近辺、指孔周り、上管の中継ぎ、節周り、管尻の根周辺だ。
歌口近辺は、歌口の角を入れる過程でカドを鋭角にしすぎるために後年割れてくる事が多い。それと歌口の節を削りすぎることで割れてくるものもある。この歌口周辺は、速めに修理をしないと大きく広がったり、歌口を代えることになる。
指孔周り、特に4孔と5孔が多い。ここも速めに修理しないと歌口まで延びたり、中継ぎまで割れたり、他の孔に繋がったりする事がよくある。しかも、この割れをほったらかしにすると音程が狂ったり、息が漏れて音がでなくなることも多い。
中継ぎの上管、これはホゾ竹(下管のでっぱり)を差し込むことで常に圧力がかかる為に割れやすい。また、ホゾ竹が真ん丸で無い場合も変な圧力がかかって…。普通は、製作段階で割れないように補強しているのだが、安物や素人作りのものでは手抜きが多い。ここも4孔・5孔に繋がったり、銀輪や籐を入れ直したりと費用がかさむので速めに修理をする方がいいだろう。ちなみに、中継ぎ下管には、ホゾ竹があるので割れが広がりにくい。
節周りについては、竹自体の硬さによるところが大きい。ある意味、良材の証拠でもある。他に節周りは生育環境化での傷なども多いので、そこから割れてくる事もある。節は竹の中でも特に硬い部分でもある。ここが割れるという事は相当な力がかかっているという事だ。速めに対処する事を望む。
管尻の根周辺が割れる原因は、主に二つ。どちらも製作過程の問題である。一つは、竹を掘る時に大きく竹を揺さぶり、根を傷つけてしまった場合。もう一つは、根っこを整形中にヤスリで削りすぎてしまった場合。ここの割れについては、糸を巻くようなたいそうな修理は必要ない。また、一度直すせば、なかなか広がる事もないだろう。他の修理があるなら私なら無料で修理してしまうレベルだ。
この修理で一番困るのは、接着剤を割れの隙間に入れているものだ。ゼリー状のもの木工用ボンド、こういったものを一度流し込まれてしまうと除去するのに本当に困ってしまう。そのまま修理に出してもらえたなら、髪の毛1本ぐらいにまで割れを目立たなくする事も可能だ。以前に修理した尺八は、木工用ボンドで尺八全体が塗りたくられて表面は手垢やホコリで黒ずみ、さらに内側にまでボンドが流れこんでいるという最悪のものだった。仕方がないのでボンドを溶かして除去し、表面の竹は全て剥いで漆を刷り込む、内側は全て生地を塗り直しという作業でそこそこ見れるものにする事ができた。
やろうと思えば、どんな状態でも修理する事はできる。しかし、こういった酷い状態の尺八を見ると本当に悲しくなるので、できうるならばごめんこうむりたいというのが本心だ。みなさんには早め早めの修理を心がけてもらえたらと思う、その方が安く済む事でもあるし。あとは、割れの防止に尺八の保管方法もどうぞ。
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