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尺八コラム 限界突破!

江戸時代産の煤竹で尺八を作る① 2017/12/7

高野山で手に入れた江戸時代ごろの煤竹 先日、高野山近郊の集落にある古民家から、”本物の煤竹”を譲ってもらうことができた。元の所有者から聞いたところでは、、江戸時代頃のものではないか、という。
 そのほとんどは、尺八を作る意図で集められた竹材ではなく、囲炉裏の上の物干しとして使用していたものである。しかも、虫食いあり、割れあり、と決してお世辞にもいい状態とは言い難い。しかし、幸いなことにうち1本は根っこの上すぐから切り取られたもので、ホゾ竹サイズの細身ながら良材があった(数本は一節切用に)。
 大変な作業ではあるが、これなら何とか明暗真法流好みの竹ができそうなので、これを尺八にしたいと思う。

 まずは、作り始める前に汚れを落とさなければならない。百数十年あるいはもっと分かもしれない塵あくたが積み重なっている。少し触るだけで、手が真っ黒になる。これを持ち帰る際にも雑巾で乾拭きしたが、帰宅後に水拭きしたところ、再び雑巾は真っ黒に、それを洗った水桶には暗黒水が出来上がった(↑写真は、汚れを落とした後のもの。煤けの下から飴色が出てきた)。匂いを嗅ぐと、人工的に作られた煤けた竹と違って、本物の煤竹は気の遠くなるような長年月をかけて自然に変色しているので、妙な香ばしい臭いなどはしない。また、経年で脆くなりそうな印象があるが、切断したところ、まるで採取油抜き後、数年しかたっていないかのような驚きの瑞々しさがある(水分は実際にはないのだが)。
 次にこの竹材で何寸の竹を作るかを構想する。理想としては8寸を作りたい。折角の貴重な材料だ。この竹で地塗りを作るつもりはない。この竹材が私の手元に来た合縁奇縁に感謝し、可能な限り素材を活かした、鳴りも姿も美しい一品を生み出したい。
 ただ、残念なことに非常に節間が悪い。延べ管で作ろうとすると歌口節は2.2寸~2.3寸の間、指孔は節の間に収まらないどころか、節の上にかかる。一節減らして8寸やさらに短い寸法を考えても同じく……。あるいは中継ぎを作って、節を抜いて調整……も指孔やバランスの問題で不可だし、そもそも下策。何より管尻部が棹になってしまう。このような状態で無理やり作ったとしても、それは決して美しいとは言い難いだろう。
 と、初手からかなり厳しい局面である。もともとが尺八用の材料ではない。こんな材料で尺八を作ろうとすること自体が間違いなのだろうか。(↓煤竹と8寸管を並べたところ、2孔が節の上になることが解る)
煤竹と8寸管を並べたところ②

 この材料で8寸を作りたいが、問題は2孔に節がかかること。もしも一節上からにした場合、今度は3~5孔が節間に収まらない。並みであれば、2孔をあきらめて節の上に持ってくるが、私はそのようなことはしたくない。
 熟考の末、私は一つの方法を取ることにした。

 次の写真を見てもらいたい。8寸と並べると、上の写真と異なり、寸法があっていることがお解りだろうか。しかも、節間もよく、管尻らしくもなっている。
煤竹と8寸管を並べたところ②
これは、単純に切った貼ったを行っているものではない。もちろん二枚は同じ竹である。
 何をしているのかというと、3孔下、2孔下、管尻の計3ヵ所で継いでいるのである。何故、このような変な場所で継いでいるのかというと、それには理由がある。
 現代の地を塗って整形するタイプの尺八と異なり、古いタイプの尺八を作る際、問題となるのが「内部の構造をいかにそのまま利用するか」ということである。その為、ほとんどの場合、延べ管が推奨されるのだが、それも管内部のことを思ってである。
 もちろん、レアケースではあるが継ぎ管も存在する。ただし、上下の管が接する内部の広狭さを極力小さくする為に、製管材料としている同じ竹を削り出して中継ぎ(凹凸)を作る友ホゾ(友心竹)にする必要がある。しかし、そのように同じ竹を削り出したとしても、ほんの僅か(0.5㎜以下)の差であったとしても、そのような誤差は後から管内を覗いたときに非常に目立つ。管外部であるならば、削るなど色々な方法で対処できるが、管内部の接合部の僅かな誤差を後から調整し、修正することは非常に難しい。
煤竹の継ぎ
 上記のことから、管内部で段差のできる継ぎが地無しタイプの尺八では非推奨とされるのである。しかし、これにもまた例外というか、回避する方法がある。
 それは、継ぎをすることで段差ができるというのであれば、もとから段差がある部分に継ぎを持ってくるという逆転の考え方である。つまり、竹の構造上必ず段差のできる節の部分に継ぎを持ってくるのである。これらは、近藤宗悦などの古管にもいく例か見られる。この方法のメリットとしては、本来、歌口・管尾孔からのみの漆塗りが、継ぎ部分からもできることになり、少しだけ、選択肢が増えることにある。
 ただし、これにはこれで難しい点もある。例えば、継ぎ部分は友ホゾ(同じ材質を削り出してホゾ竹にする)にしなければならないし、節間や指孔の間隔も予め細かに計算しておく必要がある。また、継ぎを1ヵ所作る毎に息漏れのリスクは非常に高くなる。それに何より、ものすごく手間がかかる。
 今回のようにどうしても使いたい竹材があるというような場合でないならば、決してとらない方法である。このような手間や時間をかけるぐらいなら、最初から節間の整った竹を使う方が、よっぽどいい。
 こういったホゾ穴や友ホゾ竹を作る方法は、私の場合は手作業で行っている。機械で穴を開けることは確かに楽で、しかも綺麗な穴になるのであるが、微妙な加減というのがとかく難しい。

 懐古主義だと思われそうであるが、ホゾ部分の接合についても、私は接着剤を使用しない。昔ながらの漆で行っている。なぜなら、現代の接着剤は合成樹脂や石油などの成分であるが、そういったものは江戸時代にはなかったのだから。虚無僧や古典本曲を標榜するなら、できるだけ当時の素材で製管し、再現することが楽器にも吹き手にも文化にたいしても誠実な姿であろうと私は考えている。
ホゾ部分の接合
 それに、このような例もある。過去の修理で、世に名製管師と呼ばれる人の竹であるが、どうにも吹いてみると違和感のある代物があった。内部を見てもどこも触られてはいないし、大きな損傷もない。しかし、同作者の別の竹と吹き比べてみると、妙な固さというか息苦しさのようなものがある。その竹は中継ぎの籐巻きを新しく替える修理だったので、それを外してみて、すぐに理由が解った。なんと中継ぎの補強にパテがべったりと塗りたくられていたのである。それを除去して、糸巻、漆塗り、籐巻きと通常の修理を行い、改めて吹きなおしてみると、修理前にあった違和感は見事になくなり、古管らしい響きになった。考えるにパテのような人工物は、竹や漆のような自然物と異なり、季節や年数、温度湿度による変化や伸び縮み、振動といった、つまり呼吸の影響が小さく、自然物の呼吸のリズムと合わないのではないかと思う。つまるところ、このように実際に音色に悪影響を及ぼすこともあるので、私はできるかぎり昔ながらの材料を使いたいと考えているのである。

 すこし脱線するが、こういった話をすると「科学の進歩でよりよい素材が開発されているのだから…そんなに固執することもないのでは?」と言われることがある。
 確かにそれは一理あるし、より良い物が作れる可能性があるならば、そういった素材を試し、探究することは作り手の使命ともいえるだろう。日用品を始め人間が使用するありとあらゆる道具や工業製品、それらの利便性や耐久度のことを考えれば科学的な進歩を利用しない手はないといえる。
 しかし、こと楽器の材料に関しては、その「科学の進歩」ばかりに頼る事はできない(もちろん定規や刃物などの道具類は当時に比べて格段に優れているので利用しない手はない)。それは何故かというと、楽器には楽曲を”再現する”ということが求められるからである。
 例えば、J.S.バッハの「G線上のアリア」は本来ヴァイオリンで奏されるが、それを同じ弦楽器で科学的に進化したエレキギターで弾いた場合、二つの音色の差は歴然だろう。未来志向で発展を求めるならば、こういった試みは何の問題もない。が、こと「バッハがいた時代の音色をできるだけ”正確”に現代で聞きたい」と思うならば、ヴァイオリンの方がいい、ということになる。さらに突き詰めればバッハの時代に作られたヴァイオリンの方がより、その時代に演奏された音色に近くなり再現性が高くなる、ということになる。それが無理なら、同じ時代の素材や手法で作ったものが、ということになる。
 一般の演奏者ならこんなことまで気にする必要はないが、やはり楽器製作者はこういったことも気になってしまう。なればこそ、木管楽器製作者はクラナディラを、ギター製作者はマホガニーを、ウクレレ製作者はハワイアンコアを求めてしまうものなのである(※これらはみな昔から楽器作りに使用される木材。木の成長速度と木材としての受給バランスがとれず、希少性が高くなっており、一部絶滅に瀕している)。
 まぁ、尺八でも琴古なら琴童・四朗、明暗なら古鏡・真龍・虎月などと、よりその流派を奏するのに相応しい楽器を求めてしまうことと、根っこの部分では同じ理屈だとは思う。

 閑話休題、尺八作りに話を戻そう。
 寸法をそろえる為に接着した部分は、その後、掃除をしてさらに彫り込み加工を行う。ホゾ状になっているので強度的には、何の問題もないのだが、こうすることで、さらに強固になる。またもう一つの理由として、継ぎ部に僅かに残る段差を軽減させることができる。もともと割れがあったので、この作業は同時に割れ止めの効果もある。管全体に割れがあったので、化粧巻きをするとして、この後、12か所も割れ止めを行った。
ホゾ部分の接着後加工

 ここまで来て、やっと……尺八を作る準備が整ったといった感である。ここからはいつもながらの作業であるが、まずは歌口入れ。歌口は今回はクジラの歯を用いた。 歌口を入れると急に尺八らしくなる。
(↓写真、歌口クジラの歯と奥が加工前のクジラの歯)
歌口入れ、鯨の歯
 次に指孔。今回は明暗真法流向きの竹にするので、他の流派や現代的な尺八と異なり、指孔は小さめに開ける(写真を撮影するのを忘れていた)。指孔が小さいと音程や音量を取るのが難しい。内部の節を抜き、指孔を開けた段階である程度の調律は行う。が、あくまで仮で、最終的には漆を塗りながらが本番である。

 この後は、漆を塗っては研ぎ、塗っては研ぎの繰り返しをしつつ、鳴りや音律、吹き心地などを試しながらの作業。それと化粧巻き。最後の磨きと艶出しなどの作業と続いていく。執筆中、現在は漆塗りを数回した後、少し鳴りが気に入らなかったので、内径の各所広狭を調整しながら研ぎを多めに、指孔も少し広げるなどの作業中。完成は、まだ数か月は先になるだろう。
 「何に、そんなにも時間が?」と思われるかもしれないが、漆を扱ってまじめに尺八を作るとどうしても時間が掛かってしまうものなのである(もちろん私は漆にカブレないのでそれが理由ではない)。
 それでは、また完成後に。今は一先ず、筆を置くとしよう

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