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尺八コラム 限界突破!

尺八の楽器分類 2015/9/12

 我々の吹く竹製の縦笛を「尺八」とひとくくりにし、西洋学的な楽器分類で「エアリード」と呼ぶ。だが、このことに私は前々から少しの疑問と物足りなさを感じずにはいられない。

 尺八を楽器の分類学で分類別けすると、

気鳴楽器 (Aerophone)、エアリード(無簧)式吹奏楽器、開管、単式縦吹きフルート、指孔つき、尺八

といったものになる。
 簡単に説明すると「(弦や太鼓のような皮膜を使わずに)空気を振動共鳴させて鳴らす楽器で、(振動させるための切片である)リードを用いず演奏者の唇で調整し、両側が開いている一本の筒を縦吹きにした、指孔がある笛」といった意味となる。
 この分類自体には、数多ある楽器を大きく俯瞰することのできる明確な分類だと思う。ただ、この分類の音響学的な見地では「(空気が振動するだけで)楽器本体は振動しない」、なので「楽器の材質は影響しない」といった研究がなされており、その為「尺八も材質は影響しない」といった結論になってしまっている。
 例えば、名器と呼ばれる「ストラディヴァリウス」や「グァルネリ」などがあるヴァイオリンのような弦楽器であった場合は、弦を弾くことで振動が発生し、その振動を胴体内部の魂柱から天板などの胴体部分に送って増幅させることで、豊かな音色へと変換させる。その際、f字孔のような開口部を布で押さえたとしても音が鳴る(胴体部から直接発音している)。そのことからも、胴体部分の材質によって音色に影響が与えられる、と考えられている。
 替わって、管楽器は3パターンの発音体に大別される。
・尺八、フルートなどの気流そのものが発音するもの
・クラリネット、ファゴット、篳篥などのリードを用いるもの
・トランペット、トロンボーン、法螺貝などの唇を震わせて発声させるもの
である。
 そのフルートやクラリネットといった管楽器の管尻の穴を塞ぎ、指孔を全て閉じた音(尺八でいえば、管尻を塞いで、ロ音を鳴らすようなこと)を出そうとした場合、残念ながら音は鳴らない。このことから、「胴体部が鳴っていない=材質はあまり影響を与えない」と考えられている。この時、振動は起こっているが振動数にしてもヴァイオリンと比べれば1/10以下程度だという。
 つまり竹だろうが、木だろうが、プラスチック、その他どのような材質であったとしても、寸法さえ狂わなければ”同じような音色が鳴る”と云っているのだ。これを信じるならば、今後、尺八は竹という伝統を捨て、3Dプリンタで作られていくことになる(構造を解析するために研究用に作ってみるのはよいとは思うが...)。正直、その後景にはゾッとするだろう。
 この研究で実証されている以上、これは紛れもない事実といえる。ただし、私はだからといって材質がまったく音色に影響しないとは考えていない。いや、ほとんどの尺八吹きがプラ管と木管と竹とでは違うと感じているだろうし、竹の楽器でも個体差があることに気付いているだろう。
 それはあくまでも”同じような音色が鳴る”ということであり、微細ながら振動は起こっているのだから。また、これらは西洋楽器に当てはめていて、尺八を突き詰めて研究したものではないのだから。西洋楽器はいかに純粋音に近づけるかを試行錯誤して生み出された楽器であるのに対して、和楽器はいかに人の声に、自然に近づけるかを考えられた楽器であるということは、研究者の間でも認識されている、ということも十把一絡げにできない理由でもある。

 私の経験上では、調律尺八(地塗り)と普化尺八(地無し)といった大きな種類の他に、尺八には気流によって鳴る楽器と、それとは別に管本体から影響を受けている楽器があるように感じている。
 もちろん、これは完全に気流・楽器振動と別けられるようなものというわけではない。例えば、「気流6割:振動4割」といったような割合の関係である。その割り合いによって感じ方が変わるという考え方である。
 その割り合いを、尺八を製作・修理し、多くの駄管から古管・名管を吹いてきた私の経験や感覚から、何となく現すと、

[調律尺八(地塗り系)]
現代管、都山系の尺八=気流9割:振動1割
琴古系の尺八=気流8割:振動2割
広作り=気流7割:振動3割
「現代管・都山系>琴古系>広作り」

[普化尺八・虚無僧尺八(地無し系)]
一般的な地無し尺八=気流7割:振動3割
法竹など=気流6割:振動4割
明暗真法流・近藤宗悦の尺八=気流8割:振動2割
「法竹<地無し<明暗真法流」

といったところだろうか。
 つまり、一見同じように見える尺八にも、その実は様々な種類の尺八があるということである。これは拙著『まるごと尺八の本』の第一章に掲載されている波形データにも現れている。調律尺八であれば、砥粉+水+漆(以下、錆地)のみのものもあれば、そこに石膏を添加するものあり、酷いものなら石膏のみ、カシュー漆などの人工塗料などを使ったものもある。広作りや地盛り尺八ならば地無しに漆を補填するような形で製作される。普化尺八であれば、地を用いずに漆を塗りこむ。このように、これら様々な尺八は明確に用途や製作工程が違い、そういう点からも別の楽器といえなくもない。
 例えば、ギターにはエレキ・ギターとアコースティック・ギターといった目に見える違いの他に、アコースティック・ギターと見た目にはほとんど大差のないクラシック・ギターやフラメンコ・ギターといったような、各分野に特化した楽器が存在する。もちろん、どのタイプのギターでも、一流の演奏家であればポップスやクラシック、フラメンコと弾き分けることができる。しかし、その音楽の持つ民族性や伝統、風土といったものは、それぞれのギターでなければ100%表現しきることは不可能である。
 そういった用途や構造、流派の違いといったものを、尺八でももう少し認識し、明確化させる必要があるのではないだろうか。その為には、尺八の歴史や曲、楽器構造、製作にいたるまで幅広い研究をしていく必要があるだろう。非常に時間と労力、多くの人の協力を必要とする作業ではあるが、もう少し何とかしたいものではある。できれば、その流派にあった竹を一人でも多くの吹き手に届けられるように。

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