楽曲解説 -ヤ行-
邦楽の様々な楽曲の由来や解説などを知り、より演奏を楽しむ為の考察です。
夕顔(ユウガオ)
地歌筝曲。菊岡検校(キクオカケンギョウ)が江戸時代後期に作曲。歌詞は源氏物語五十四帖の巻の一つ第4帖、帚木三帖の第3帖の夕顔の巻から内容を借用しており、源氏と夕顔が交わした和歌が多く取り入れられている。箏のパートは八重崎検校(ヤエザキケンギョウ)。
住むや誰
訪(と)いて見んと 黄昏(たそがれ)に
寄する車の 訪れも
絶えてゆかしき 中垣の
隙間求めて 垣間見や
かざす扇に 焚きしめし
空薫き(そらだき)物の 仄々(ほのぼの)と
主(ぬし)は白露 光を添えて
[手事]
いとど栄(は)えある 夕顔の
花に結びし 仮寝の夢の
覚えて身に沁む(しむ) 夜半(よわ)の風
手事物としては小規模な曲ではあるが、虫の音や砧を暗示する音型なども使われ、その短いながらも変化にとんだ掛け合いは、演奏会などでも重宝される。三味線・お箏ともによく工夫された名曲であり、尺八の合奏とも良く合う。夕顔の儚さが投影されたもののあわれを感じさせる趣深い曲である。
夕顔=別名に常夏(とこなつ、撫子の古名)の女とも呼ばれる。
三位中将の娘で頭中将の側室、一女(玉鬘)を産むが、本妻の嫉妬を恐れて市井に紛れ、お互い素性を明かさずに光源氏の愛人となるが早世する。どこか儚げでそれでいて朗らかな性格から源氏にとっても理想の女性像の一つとして、死後もその面影を探すようになる。
心あてに それかとぞ見る 白露の 光そへたる 夕顔の花<源氏物語 第四帖>
撫子の 常夏かしき 色を見ば もとの垣根を 人や尋ねむ<源氏物語 第二十六帖>
源氏夕顔巻 月岡芳年画 「月百姿」(Wikipediaより)
菊岡検校=関名は楚明一。1792~1847。地歌の作曲者。
地歌の作曲者として活躍し、京流手事物の様々な名曲を後世に遺している。その多くの曲の箏のパートは八重崎検校が担当している。代表作品に磯千鳥・楫枕・茶音頭・夕顔など多数。
八重崎検校=関名は壱岐之都、三保一。生田流。1776または85~1848.
京流手事物の箏パートの作曲の第一人者で、多くの箏パートを作曲している。それまで人気の無かった曲も、彼が作曲する事で人気になった曲も。
その他のヤ行の楽曲
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