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楽曲解説 -ア行-

 邦楽の様々な楽曲の由来や解説などを知り、より演奏を楽しむ為の考察です。

菖蒲浴衣(アヤメユカタ)

 地歌筝曲、長唄物。作曲は、2代目杵屋勝三郎と3代目杵屋正二郎の合作。作詞者は不明。5代目芳村伊三郎の襲名披露の演奏会のために作られた祝儀曲で、杵屋正二郎が仲を取り持ち、仲の悪かった杵屋勝三郎と芳村伊三郎の仲裁を兼ねての演目であったらしい。
 この場合の菖蒲は、アヤメ。同じ字でショウブと読むのでややこしい。他に、花や葉が似ていて見分け難いものに、杜若(カキツバタ)、花菖蒲(ハナショウブ)などがある。全てアヤメ属科の植物。詩の中ごろから、様々な色や反物の種類などが唄いこまれ、鮮やかである。

五月雨(さみだれ)や 傘につけたる小人形(こにんぎょう)
晋子(※1)が吟も(しんしがぎんも) まのあたり
己が換名(かへな)を 市中(いちなか)の
四方(よも)の諸君へ 売り広む(うりひろむ)

拙なき業を(つたなきわざを) 身に重き
飾り兜の 面影(おもかげ)うつす
皐月(さつき)の鏡 曇り無き
梛の双葉の(なぎのふたばの、※2)) ゆかしさは
けふ(今日)の晴着に 風薫る
菖蒲浴衣の 白襲ね(しろがさね)

表は縹(はなだ、※3) 紫に
末紫(うらむらさき)の 朱奪ふ(あけうばう、※4)
紅も亦(くれないもまた) 重ぬるとかや
それは端午の 辻ヶ花(つじがはな)
五とこ紋の(いつとこもんの) 陰日向(かげひなた ※5)

暑さにつくる 雲の峰
散らして果(はて)は 筑波嶺(つくばね)の
遠山夕暮(とおやまゆうぐれ) 繁り枝(しげりえ)を
脱いで着替への 染浴衣(そめゆかた)
古代模様の よしながき
御所染千彌(ごしょぞめせんや) 忍ぶ摺り(しのぶずり)
小太夫鹿子(こだいふかのこ) 友禅(ゆうぜん)の
おぼろに船の 青簾(あおすだれ)

川風肌に 沁々(しみじみ)と
汗に濡れたる 晴れ浴衣(※ 枕紙)
びんのほつれを 簪(かんざし)の
届かぬ愚痴も 好いた同志(すいたどし、※ 惚れた同士)
思いをここに(※ 命と腕に) 堀切(ほりきり)の
水にいろある 花菖蒲(はなあやめ)

弾く三味線の 糸柳(いとやなぎ)
縺れ(もつれ)を結ぶ 盃の
行く末広(すえひろ)の 菖蒲酒(しょうぶざけ)
是れ(これ)百薬の長なれや

廻る盃(まわるさかずき) 数々も
酌めや酌め酌め 尽きしなき
酒の泉の 芳村と
榮ゆる家こそ 目出度けれ

※=読み替えて唄う物もある

※1 晋子=宝井 其角(たからい きかく)の別号。其角は、松尾芭蕉に師事した俳人。

※2 梛の双葉の=ナギは高山に自生する雌雄異株の樹木で、熊野三山ではご神木とされている。また、ナギ=凪と掛けられ、船乗りの安全祈願、災難除けとして葉をお守りや鏡の裏に入れておく風習がある(ここが前文の「皐月の鏡」にかかっている。ここの「双葉」は雌雄一対、夫婦を表し、杵屋勝三郎と芳村伊三郎が仲直りするようにという意味を暗示させている。

※3 縹=はなだ、花田色。和名の色彩の一つで、明度の高い薄青色。古来は、花のつゆ草から染められたことから花色、月草色、千草色、露草色などの別名がある。

※4 末紫の朱奪う=うらむらさきは、裏地が紫色の事。詩などでは「恨む」という言葉の掛詞として使われる。
「紫の朱奪う」は、論語の故事からきており、古代は正色であった朱から、いつのまにか紫が尊ばれるようになったことから「まがい物が地位を奪う、似て非なるもの」の意味。ココでは、「勝三郎の有名を恨みに持つのは筋違い・誤解ですよ」ということを暗示している。

※5 陰日向=日の当る所と当らない所。人の見ているところと見ていないところ。裏方・表方など。

2代目 杵屋勝三郎(キネヤカツサブロウ)=初代杵屋勝三郎の実子。1820年~1896年。
長唄三味線方の名跡の一つ。特に二代目は三味線と作曲の腕が非凡で多くの名曲を後世に残している。その腕前を称えて「馬場の鬼勝」とあだ名される。

3代目 杵屋正二郎(キネヤショウジロウ)=1826年~1895年。
長唄三味線方の名跡の一つ。市丸座を2代目杵屋勝三郎から引継ぎ、9代目市川団十郎の知遇を得て、土蜘蛛・鏡獅子・紅葉狩りなど多くの名曲を残した。また、西洋音楽を取り入れるなど新たな試みをするなど先進的な人でもあった。

5代目 芳村伊三郎(ヨシムライサブロウ)=本名は石川清之丞。1832年~1882年。
長唄の家元の名跡。幕末から明治初期にかけての名人。

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