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楽曲解説 -ア行-

 邦楽の様々な楽曲の由来や解説などを知り、より演奏を楽しむ為の考察です。

歌恋慕(ウタレンボ)

 地歌筝曲。作曲は菊平勾当(キクヒラコウトウ)、歌詞は古風な小唄を組歌風に集めたもの。古曲としては珍しい箏物の曲で、三味線は後代の作。愛しい人に会えれば一夜限りでもうれしく、夢の中でさえその伊達男が吹く尺八の音色にこそ束の間の幸せを感じる、そんな哀しい遊女の心情を歌った詩。
 お箏の組歌の歌い方を学ぶ為の練習曲のような作りで、六段を組歌の手法の練習曲とすると面白い対比になる。筝曲の手事に巣籠地が添えられているのは、この曲の歌詞や曲名が尺八曲に因むためであるという。
 常世の曲と打ち合わせ合奏も可能で、歌恋慕を低い平調子に常世の曲を雲井の高調子にして甲乙の合奏をするのも面白い。
 同名異曲に明暗真法流歌恋慕(伊予恋慕、鈴慕ノ曲)がある。あるいは地歌筝曲の歌恋慕は、この曲や一節切に影響されていたのかもしれない。

絶えて逢はずとな 文をば通ひ
文は妹背(いもせ)の 橋となる
妹背のな 妹背の文は
文は妹背の 中となる
人の辛さにな こりもせず
憂き玉の緒の いつまでか
絶えぬ思ひに 呉竹(くれたけ)の
幾夜 伏見の袖(そで)濡れて
乾く間も無き 涙の渕よ
夢になりとも 逢瀬は嬉し
寝良げに聞くは 小夜(さよ)の尺八
一節切(ひとよぎり、一夜限り)にも 情あれかし
梅は匂ひよ 桜は花よ
それそれ 人の情は
いつも 花の香

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